
「エンゲージメント」という言葉を聞いたことはあるだろうか。従来はマーケティング領域にて「顧客とのつながりの強さを示す指標」として活用されてきた言葉だが、昨今は人事・マネジメント領域で「組織に対する自発的な貢献意欲や主体的に仕事に取り組んでいる心理状態を表す指標」として注目され、数多くの企業が組織づくりの中核に取り入れている。シリーズ「# あなたの職場は"働きがい"を育めていますか?」では、エンゲージメント向上プラットフォーム「Wevox(ウィボックス)」を開発運営するアトラエの川本周氏が最新のエンゲージメント動向や具体的な事例や向上にむけたノウハウを解説する。
人的資本経営やウェルビーイング・パーパスなど、改めて「ヒト」の可能性に対して、組織づくりやマネジメントのあり方の変革が求められる現代。真の意味で「エンゲージメントを持続的に育める組織・職場づくりができているか?」を問いたい。この問いに「できています」と言い切れるかどうかで、その企業の今後の持続的な成果創出や競争優位性を左右する時代が来ています。
1.日本に起きている時代の変化
まず、「現代においてなぜエンゲージメントが重要なのか?」という問いを時代の変化の観点から考えてみましょう。
2020年9月に経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」では、環境変化に伴う持続的な企業価値の向上と人的資本における問題意識として、図に記載の内容が挙げられています。

第4次産業革命やグローバル化による産業構造の急激な変化、少子高齢化や人生100年時代の到来、個人のキャリア観の変化、新型コロナウイルス感染拡大後のニューノーマルへの適応等、企業や個人を取り巻く環境への変化に伴い、現代は、働き方を含めた人材戦略の在り方が改めて強く問われている時代となります。
また、同レポートでは変革の方向性として以下の図のように提示されています。

環境変化・競争優位性の変化に伴い、「ヒトを活かす」組織づくりやマネジメントのあり方が強く求められている形になります。
なぜ、日本企業はこのような変革が求められているのでしょうか。
それは未だ「かつての成功体験・固定概念を引きずった組織づくり・マネジメントを繰り返している」からです。時代は変わっているのに、組織づくり・マネジメントのあり方を一向にアップデートできていない現状があるのです。

2.〝個〟を活かせる組織・マネジメントづくりを
高度経済成長期から昭和終期にかけて高い成長を遂げた日本企業。当時の日本の時代的背景や経済環境に、日本独自の終身雇用制度や年功序列型の組織形態が非常にマッチしていました。しかし、1995年頃から生産年齢人口がダウントレンドになり、インターネットの商用利用が始まり、ビジネスの競争環境が大きく変化しました。

かつての経済成長の時代では「オペレーショナルエクセレンス」と呼ばれる、ミスを最小化して効率的に物事を実行していくことやマニュアルにきちんと沿っていることが重要とされていました。しかし、現代では「今までの通りの製品やサービスを継続するだけではなく、顧客にとって本質的な価値のあることは何なのかを考え、スピーディーに実行すること」が求められます。現代の競争環境においては、オペレーショナルエクセレンスだけではなくて、さらにクリエイティビティやアイディア、革新性のようなものをしっかりと発揮していかなければなりません。これが大きく変わった点だと考えます。

ビジネスにおける競争優位の変化に伴い、仕事のあり方が変わってきているため、働く人たちに求められる素質やスキルも変わってきています。

思考時代と定義される現代では、高い専門性や新しい価値、そういったものを認知したり、創造できるようにならないと、活躍する場を得ることができません。
これからの時代に必要とされる素質やスキルを活かせる組織・マネジメントに変わらない限り、社会の進化から取り残される可能性が高まります。組織として何をすべきか全員で考え、高い専門性を個々人が磨いていく、そんな組織に変わらない限り生き残り続けられない時代に突入しているのです。
次回は、「時代の変化に伴って、組織・マネジメントに求められる変化」について解説します。