
現場にある思い込みや性別による固定観念をリセットし、自由で柔軟な働き方を実現するヒントを提供するシリーズ「“女性だから”をなくせば、“男性だから”もなくなる」。今回は、医師が語る「卵子から見る時間との向き合い方」から、キャリアの選択肢の1つとして、卵子凍結について解説する。
「もし子どもを望むなら、いつまでに産むべき?」
この問いに、すぐに答えられる人は多くありません。キャリアも出産も、どちらも大切にしたい。だからこそ、これまでの考え方を少しアップデートして、“選べる時間”を意識することが求められています。
働き盛りと呼ばれる30代半ばは、昇進やマネジメントの節目と、妊娠・出産の適齢期が重なる時期。その“タイミングのむずかしさ”と、どう向き合えばいいのでしょうか。
こうした中でいま、「卵子凍結」を福利厚生の一環として導入する企業が増え、東京都も2023年10月から助成制度をスタートしました。
QOOLキャリアが提供する福利厚生サービス『TUMUGU(つむぐ)』では、“「知ること」で人生の選択肢をアップデートできるように”という思いのもと、医師による会員向けセミナーを実施しました。
医師が語る「卵子と時間」のリアル
登壇いただいたのは、不妊治療専門のオーク銀座レディースクリニックの田口早桐先生。不妊治療の現場で日々患者さんに寄り添う立場から、卵子凍結の基本知識、年齢による妊孕性(にんようせい・自然に妊娠する力)の変化、費用面や身体への影響、そして職場での理解のあり方まで、具体的な事例とともに丁寧にご説明いただきました。
中でも印象的だったのは「卵子の変化」。
ヒトの卵子の数は、お母さんのおなかの中にいる胎児のときが約700万個とピーク。そこから増えることはなく、出生時には約200万個、その後は加齢とともに急激に減っていきます。
妊孕性は35歳を過ぎると急激に下がり、体外受精の妊娠率も大きく低下します。
「将来の自分」のために残しておくという選択
卵子凍結は、いわば「今の自分」が「未来の自分」に残してあげられる選択肢。
現時点で最も妊娠率の高い卵子を温存しておけるのです。たとえば32歳で卵子を10個凍結すれば、将来の妊娠率は約65%。20個で88%、30個なら96%近くまで上がります。
田口先生によると、採卵は40歳未満でも一般的に3回ほど必要で、40歳を超えると5〜6回に及ぶケースも多いそうです。38歳を迎えてから不妊治療を始める方も少なくありませんが、治療には時間もお金がかかるだけでなく、体への負担も決して小さくないのです。
【事例紹介】35歳で凍結した卵子で、41歳に妊娠・出産へ
セミナーでは実際に凍結卵子を使って妊娠・出産した方の事例も紹介されました。
Aさんは35歳で4回の採卵を行い、計20個の卵子を凍結。6年後の41歳の時、凍結卵子で妊娠・出産されました。
かかった費用は約163万5000円。大きな決断でした。
「体外受精=1回で妊娠」と思われがちですが、実際には何度も採卵や通院が必要になるケースも。だからこそ、まずは“正しい知識”も知っておくことが大切です。
卵子凍結を“個人の問題”で終わらせないために
セミナー後のアンケートでは、参加者の9割が「満足/とても満足」と回答。
「男性管理職にも聞いてほしい」「他の社員と会話しながら受けられたのがよかった」などの声が寄せられました。
卵子凍結は、決して“女性だけの選択”ではありません。将来、誰かの大事な選択を支えるために、組織としても価値観をアップデートし、支援のあり方を見直すことが求められています。
キャリアの選択が“出産との両立”によって左右される現実がある以上、組織としての理解と支援が、結果的に持続的な人材活用にもつながります。
「知らなかった」で選択肢を失わないように
「まだ先の話」「自分には関係ない」そう感じている人にこそ、TUMUGUを通じて“後悔のない選択”につながる正しい知識を届けたいと考えています。
キャリアも、家族も、どちらも大切にしたいと願う人にとって、卵子凍結は選択肢のひとつになります。
特に管理職や人事職など、誰かの人生に関わる立場の方々は、まず“知ること”から、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
山中 泰子(やまなか やすこ)
株式会社QOOLキャリア 代表取締役社長
人事歴15年以上。 大手IT系人材サービス企業で人事として採用・育成・制度設計を経験。自治体と協働し、ひとり親家庭の就業支援事業を立ち上げ、保育施設を併設した就業施設の開設・運営を主導。その後、上場企業の人事担当執行役員、スタートアップの人事責任者を歴任し、2022年4月よりQOOLキャリア代表に就任。企業のダイバーシティ推進を支援するほか、1児の母としての経験を活かし、キャリアアドバイザーとして仕事と育児の両立に悩む女性の支援を行う。
福利厚生サービスTUMUGUサービスサイト:https://tumugu-service.jp/
株式会社QOOLキャリアHP:https://career.qo-ol.jp/
ワーママのキャリアと働きがいをアップデートするメディア:https://www.qo-ol.jp/