第1回 銀行員向け スタートアップ企業稟議必勝法

公開日

2023/07/29

セブンリッチ


スタートアップ企業の支援に強みをもつセブンリッチ会計事務所がスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)、ビジネスアウトソーシング(BPO)などをテーマに主体者別の視点で取り組みのポイントを解説する新シリーズ「会計事務所が見る、スタートアップ企業の今」。第1回は、メガバンク出身で同社の融資事業部責任者である稲葉大二郎氏が「銀行員向け、スタートアップ企業稟議必勝法」と題し、金融機関の営業担当者視点で、融資稟議の作り方を説明する。

スタートアップ企業が事業を成長させるにあたって、必ずと言ってもいいほど必要になるのか「資金調達」。しかし、代表的な調達の方法である〝銀行からの融資〟には手を出しにくい…と感じているスタートアップ企業の経営者も多くいます。

私たちは会計事務所としてスタートアップ企業を主とした2000社以上から資金調達に関する相談を受けてきましたが、

事業が安定してない今、融資は受けられないのではないか
銀行は、スタートアップ企業に理解を示してくれないのではないか

などの不安が、経営者を足踏みさせています。

さらに、銀行員の皆さんもスタートアップ企業の稟議書の書き方は現場で教わらないことがほとんど。〝融資を受けたいがその方法がわからない〟スタートアップ企業と、〝スタートアップ企業に融資を実行したいがノウハウがない〟担当者が、互いにマッチングできないケースを目の当たりにしています。

そこで今回は「スタートアップ企業稟議必勝法」と題し、銀行員が稟議を成功させるコツをお伝えします。




なぜスタートアップ企業への融資が注目されているのか
2022年6月に政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022」を公表し、「スタートアップ」が、人への投資、科学技術・イノベーション、炭素・デジタル化と並ぶ、重点投資分野であると位置づけました。同時に、スタートアップへの投資額を10倍に増やすという目標を掲げ、公共調達を活用しながら、スタートアップの事業化を積極的に支援していくことを明らかにしています。

今や、スタートアップ企業への投資は国を挙げた取り組みの一つとなり、政府系金融機関だけでなく民間金融機関によるスタートアップ企業向け融資も積極化しています。「ネクストユニコーンを生み出すことが日本にとって大きなメリットである」ということ、「ネクストユニコーンを捕まえるためには、ポテンシャルが顕在する前にリスクを取れるかどうかである」という認識が、社会全体に広まってきているのです。



スタートアップ稟議必勝法キホンのキ
一方、金融機関の現場に目線を落とすと、スタートアップ企業への融資を成功させたいが、上司への稟議が通らない・スタートアップ企業向けの稟議の書き方がわからないと苦心する担当者もいます。当然、稟議書を通すためには、その企業の事業が順調であるという前提が必要ですが、稟議書の作成にもいくつかのコツが必要です。

(1)資金使途を明確にする
例えば、資金用途のひとつに「広告」があった場合、OOH(屋外広告)なのか、SNS広告なのか、タクシー広告なのか、どのくらいの期間掲出するものなのか等によって、必要な金額も見込める効果も異なってきます。経営者は効果を見込んだ上でその領域への投資を検討しているはずですから、詳細をヒアリングし、その妥当性を十分に検証した上で稟議書に明確に記載することが必要です。

同様に、資金用途が「採用」の場合は、いつまでにどんな役割でどれだけのコミットメントの人を何人採用し、彼らのリソースがどのくらい未来にどのような効果をもたらすのか、その実現性や妥当性まで含めて検証する必要があります。銀行で最初に教わる〝経常運転資金〟だけではなく、より広義な意味で事業の発展に資する資金用途を解像度高く記載します。

上記広告費や採用費については、担当者が想像で稟議を回しても上長が判断しづらいので、他社事例を蓄積し、説得力を高める必要があります。


(2)返済能力を説明するために「出せるデータを全て出す」
当然のことですが、返済能力を証明するためには、売上・利益がどの程度堅調に伸びていくのかを説明する必要があります。ただし、スタートアップ企業のほとんどは通常の返済能力検証では「不可」の判断になるでしょう。そのため、自社だけではなく市場規模・市況感も含めた「出せるデータ全て」を収集・記載します。

まだ納品や入金には至っていないが契約が進んでいるクライアント、数年先を見越したアタックリスト、さらに言えば直近3ヶ月のクライアントとのやり取り、受注リストなど、ポジティブに働く可能性があるものはとにかく全て収集することが大切です。

スタートアップ企業の販売先につながりがあれば、その企業の担当者から情報を吸い上げたり、エクイティの調達先にインタビューしたり、現預金の推移見込を見て現実的な回収期間を検証するなどして、返済能力の蓋然性を高めていく必要があります。


 


セブンリッチ稲葉 大二郎(いなば だいじろう)
2009年、みずほフィナンシャルグループ入行。
7年半勤務後、デロイトトーマツグループ入社、日本を代表する企業の人事支援を担当する。トーマツ退職後、教育系ベンチャー、プロバスケットボールチームの財務人事領域の責任者を経験。
2022年SEVEVRICH Accountingに融資事業部責任者として参画。スタートアップを中心とした“融資を受けたい企業”と“融資をしたい銀行”のマッチング・支援を行う。


 


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稲葉 大二郎

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