Vol.1 顧客接点の拡大に向けたDXの取り組み(前編)

公開日

2023/04/28

不動産アセット・マネジメントビジネスや再生可能エネルギーへの投資、農業ビジネスへの参入など、さまざまなハイブリッドビジネスに取り組み、事業ポートフォリオの拡充が進む大和証券グループ。その主要子会社で、主として有価証券の売買等に係る業務を担っているのが大和証券だ。

DXという言葉が世の中に急速に浸透し、金融業界でも生き残りをかけて業務プロセスや組織の見直し、さらには、新たな事業領域への挑戦など、変革が求められる時代となるなか、大和証券では、どのようにDXを進めているのか。

デジタル変革に伴走するアイデミーの石川聡彦代表取締役執行役員社長CEOが、同社の植田信生デジタルIT推進室長に、DX推進の概要とDX人材育成をテーマにインタビューした模様をシリーズ「大和証券のDX事例から学ぶ 金融業界のDX推進術と牽引人材の育成法」として3回に分けて紹介する。



――DX
を通じてどのような変革を目指しているのか、お聞かせください。
日本の金融資産の増加率は、欧米諸国と比較すると非常に低水準です。その原因の一つとして、個人金融資産に占める現預金比率の高さが挙げられます。「貯蓄から資産形成へ」の流れを促進し、成長分野への資金流入を加速させることで、国民一人ひとりにその恩恵を還元する。そのような好循環を実現させることは、当社の社会的な使命だと考えており、DXを通じた実現を目指しています。


――具体的にはどのようなことを実施したのでしょうか。
「貯蓄から資産形成へ」を加速させるためには、いままで証券会社とお取引がなかったお客様にも関心を持っていただくことが重要です。そのため、当社では、外部企業との業務提携を通じた「お客様接点の拡大」に取り組んでいますが、活用しているシステムが全く異なる会社で同じサービスを提供しようとすると、従来の方法では両社のシステム連携に時間がかかったり、紙や電話による手作業の処理が大量に発生してしまうなどの課題がありました。

これらの課題を解決するため、大和証券ではAPI等を活用し、社内向けシステムを外部企業へ容易に提供できるようにプラットフォーム化することで、スムーズなビジネス拡大および業務処理の自動化・ペーパーレス化を実現しました。


――新しい領域に進出するための環境整備をDX施策として実施しているのですね。実際の取り組みの効果はいかがですか。
2022年5月には日本郵政グループとのファンドラップでの協業がスタートしました。さらに2023年4月から開始した四国銀行との業務提携など、外部企業との提携が増加しており、着実に効果が出てきていると考えています。


――目指されていた方向に着々と進まれているのですね。DXの取り組みを始める際には、いったい何から着手したらよいかわからないという悩みを伺うことも多いですが、大和証券ではどのような方法でDXに取り組まれたのでしょうか。

大和証券では、〝環境〟〝人材〟〝文化〟の3領域でDXに取り組んでいます。



環境では、CIO主導でIT部門が中心となり、業務の自動化・効率化の取り組みに加え、ITインフラをこれからの時代に合わせてレベルアップさせるプロジェクトを進めています。

人材では、デジタル技術を活用したビジネス変革を担う高度なデジタルIT人材を育成する「デジタルITマスター認定制度」を新設しました。また、大和証券全役職員9,000人のデジタルリテラシー向上や、各本部部署で必要とされるITスキル・データ分析スキルを習得するための枠組みとして「Daiwa Digital College」を導入しました。人材育成に関する企画・運営は、デジタルIT推進室と人事部が共同で取り組んでいますが、他部署からもスキル習得に関する意見を聞き取り、連携しながら進めています。



文化では、社長が議長を務め、各ビジネス担当役員が参加する「データ駆動推進協議会」を新設し、部門横断での具体的なビジネス施策について議論・検討を行っています。また、各現場でのDX推進をサポートする社内の専門家集団(CoE※)の設置、マネジメント層向けのデジタルマインド研修の拡充など、デジタルを活用するための企業文化の醸成に取り組んでいます。

このように3領域における取り組みを同時並行で進めながら、「業務プロセスのデジタル化」によって蓄積されたデータを分析・研究・活用し、イノベーションの発掘や意思決定のスピードと質を向上させる「“データ駆動型”ビジネスモデルへの変革」を目指しています。

次回、中編では、DX推進のポイント、金融業界特有の課題などについて更に掘り下げて伺っていきます。

※:CoEは、Center of Excellenceの略。データやデジタル技術に関する知見・ノウハウを蓄積し、ビジネス部門をサポートする機能。



 

石川 聡彦

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