
地域銀行や信用金庫が力を入れる事業承継・M&A業務。本部に専担部署を設置し、外部機関との連携を進めている。中小企業庁も中小企業のM&Aを円滑に促進するために、仲介業者や金融機関などM&A支援機関が、適切に支援する「中小M&Aガイドライン」を策定。官民が連携した取り組みを見せている。事業承継問題を解決する手段としてM&Aが増えるなかシリーズ「多面的にM&Aの活用を~地域企業の盛衰は金融機関の経営に直結~」ではコンサルティング事業を展開する名南M&Aの篠田康人社長にインタビューした。
▶ 国内でのM&Aの現状は
中小企業のM&Aが盛り上がりを見せています。2020年のM&A成約件数は新型コロナウイルス感染症の影響で前年割れしたものの、2021年は盛り返し、4280件と過去最高を更新しました。これほどまでにM&Aが盛り上がりを見せている理由は、中小企業における事業承継問題と、中小企業における生産性向上問題の2つに集約されると考えています。事業承継問題は遡ること2004年、中小企業白書で初めて事業承継問題が取り上げられ、それ以来、幾度となく問題提起されてきました。2006年には事業承継ガイドラインが策定され、10年後の2016年には改訂版、翌2017年には事業承継5カ年計画が打ち出されるなど、中小企業の事業承継問題解決のために様々な施策が打たれてきました。M&Aもその一つであり、団塊の世代といわれる経営者が70歳を超える現在において、M&Aを含めた様々な手法により事業承継問題の解決が求められています
▶ もう一つの生産性向上問題とは
前菅政権における成長戦略会議で問題提起されました。日本の中小企業は数が多く、我が国経済を下支えしていることは間違いありませんが、企業規模が小さいが故に生産性が上がっていません。そのため、利益も低く抑えられ、結果的に給料へ反映されないことが問題視されたのです。企業規模を拡大することこそが中小企業の生産性向上の策であり、その手段としてM&Aが注目されているのです。事業承継問題により譲渡希望者が増える一方、生産性向上問題により買収希望者が増えたことが、昨今のM&Aが盛り上がりを見せている理由です
▶ M&Aに関する政府の施策は
M&Aが企業にとって多くのメリットがあることが理解される中で、国としてもM&Aに関する施策を充実させる動きがみられます。2020年には中小M&Aガイドラインを策定し、中小企業がM&Aに取り組むにあたっての留意点をまとめました。また、2021年には中小M&A推進計画を策定し、M&Aの成約件数を伸ばすための施策が充実しました。補助金や税制優遇などはそのひとつです
▶ 金融機関がM&Aを推し進める意義は
過去、M&Aのイメージは会社を売るのは「身売り」、会社を買うのは「乗っ取り」であり、ネガティブなイメージが先行していました。最近では事業承継解決策としてのイメージが定着しつつありますが、本来のM&Aはもっと多面的なものであるはずです。これからの我が国は人口が減少し、マーケットが縮小していきます。海外展開が容易でない中小企業が国内で生き残りを図るためには、M&Aも経営戦略の選択肢に入れておく必要があります。単に会社を売ったり買ったりするのではなく、M&Aを活用して必要なものを買い、不必要なものを売るとか、他社との合従連衡を模索するなど、フレキシブルなM&A活用が求められます。金融機関にとって企業の盛衰は自金融機関の盛衰に直結する課題です。単に事業承継や買収といった提案だけでなく、真のM&Aコンサルティングを通じて企業の永続に貢献することが今、求められています