組込型金融とは、金融機関の提供する機能やサービス(例えば口座開設、預金、決済、ローンを中心とする融資、保険、証券投資等)を、他業種の企業が取り込み、自社のサービスを非金融機能・金融機能の両方を備えた、より付加価値の高いものとして構築していく仕組みです。
海外(数回後で論じていきます)ではエンベデッドファイナンスという場合が多いのですが、日本の場合はBaaS(Banking as a Service)という表現が一般的になっています。国内のBaaSは2020年ごろからネット専業銀行を中心として普及し始めました。


銀行の狙いとしては、顧客接点の拡大があります。事業会社に金融機能を提供することによって、金融機関単独では獲得できなかった顧客への接触が可能となります。
事業会社側の主な狙いとしては、顧客との中長期的な取引関係の強化や、サービスの利便性向上、得られた顧客データの利活用などがあります。具体的なサービスなどは後程詳しく述べますが、航空会社や鉄道会社によるポイントがたまる口座の導入や、家電量販店による自社ブランドの家電製品ローンの提供などが出てきています。


(1)BaaSの類型と特徴
①銀行機能の基盤を提供して、預金や振り込み、ローンといったフルバンキング機能を企業に提供するケース
この分野で最も実績を上げているのが、住信SBIネット銀行で、提供機能を「共通基盤化」して開発コストを抑える形での提供を可能としました。銀行機能の提供ばかりではなく、事業会社の銀行代理業取得のサポートも含め「ネオバンク」ブランドによってBaaSを展開しています。JAL(日本航空)支店やヤマダホールディングス支店など、20社以上にフルバンキング機能を提供しています。
また楽天銀行もかなりの存在感を誇っており、第一生命保険とJR東日本に銀行機能を提供しています。ここでは提供先ごとに銀行機能を一から作り上げるカスタマイズ方式が特徴となっています。
②APIを介してモジュール化した銀行機能を事業会社に提供するケース
ライセンスなしでも導入できて、小規模な事業者でも参入できる点が特徴です。APIの接続料、利用料、取引時の各種手数料が銀行の収益源となります。GMOあおぞらネット銀行がかなり積極的に活動しています。
ふくおかフィナンシャルグループが提供するみんなの銀行も積極的に展開しており、スーパーマーケットで買物客が購入代金を同行の口座から直接引き落とせるようにしています。


(2)そのほかの金融機関の動向
ネット専業銀行のほか、対面を重視する金融機関でもBaaSへの参入事例が出てきています。デジタル技術の進展とともに、個人の金融取引においても急速にデジタルシフトが進み、ネット専業銀行がスマホ決済やポイントサービスでの利便性・利得性をアピールして個人顧客を増やしつつあります。
このため、メガバンクや地方銀行なども取引先へのフルバンキング機能の提供をかなり考えています。


(3)新領域への取り組み
法人向けサービスを展開する事業会社への組み込み型金融の事例が見られます。
住信SBIネット銀行は、クラウドサービスを行っているSansan(サンサン)の請求書管理サービス「ビルワン」に銀行機能を提供しています。サンサンの顧客企業の取引先ごとに、入金専用のバーチャル口座を発行して取引先からの入金を請求書の内容突合から入金消込、仕訳データの作成まで自動でできるようになっています。
北國銀行は法人向けの請求書サービスを行うフィンサーと提携し、法人向けのデジタル銀行サービス「フィンサーバンク」の提供を始めました。受け取った請求書の振り込みデータの作成から実行を効率化させるサービスなどを提供します。


プラス 斎藤和男 融資

斎藤 和男

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