【実像】〝攻め〟に生かすクラウド(上)銀行主体で地域DX実現

2023.03.23 04:50
DX 実像
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク
システムを構成するハードウェアにおいて変革が加速する

7~8割――。銀行がシステムにかけるコストのうち、管理や保守といった〝守り〟に割いている比率だ。このコストを低減し、新規開発との比率を逆転するため、システム利用側でサーバーといったハードウェアを保有しない、「クラウド」基盤の採用が金融界でも相次ぐ。他方、他システムとの連携のしやすさからDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上で、重要な基盤にも生かす動きが加速している。〝雲〟の向こうに見える金融像に迫る。


業務継続に危機感募る


「メインフレームを扱うのは、IBMだけになると思っていた」。かつて、金融機関に勘定系システムを提供するITベンダーの間でささやかれた。メインフレームは1960年代の第一次オンライン化以降、預金・為替・貸出という基幹業務を処理するために利用されてきた。


しかし、比較的安価なオープンサーバーの台頭などを要因に、足元の利用状況は減少傾向が続き、富士通や日立製作所が相次いで撤退・サポートを終了する事態となった。今やレガシーシステムのメインフレームを使い続けることは、業務継続性を十分満たせないとの見方は少なくない。


その中でクラウドに注目が集まる。業務処理量やSaaS(サービスとしてのソフトウェア)の利用で容量を増減する際は、PC上で数クリックし完結するなど、柔軟性が高い。このほかのメリットを最大限に享受する動きが、地域金融機関でも表面化。きっかけは2021年5月の北国銀行によるパブリッククラウドでの稼働だ。


最新技術扱う基礎固め


北国銀は、BIPROGY(ビプロジー、旧日本ユニシス)の「BankVision(バンクビジョン)」を稼働させた15年から、クラウド移行を見据えていた。高品質に成長したAI(人工知能)やデータの利活用に取り組むためだ。稼働から約2年を振り返り「デメリットよりもメリットの方が絶対的に大きい」(新谷敦志・同行執行役員システム部長)と手ごたえを感じている。


バンクビジョンがWindowsベースのオープン勘定系なこともあり、日本マイクロソフト社の「Azure(アジュール)」を採用し第一歩を踏み出した。このことで、クラウドネイティブの生かし方をいち早く会得。アジャイル開発といった最新テクノロジーを活用し、顧客に便利なサービスを素早く安価に提供できる基礎が固まった。


他方、システムを使いたいときに使える可用性は、金融機関で一般的とされる〝5ナイン〟(99.999%)に劣る。アジュール側で障害が発生するとクラウドバンキングの接続が不安定になるなど、外的要因が影響。また、ソフトウェアは従来と同じであり、COBOLを始めレガシーなプログラミング言語は依然として残った。


データ共有モデル確立


こうした課題を解消しつつ、地域DXを進めるために打ち出したのが、北国フィナンシャルホールディングス(FHD)の「次世代地域デジタルプラットフォーム」構想だ。ビプロジーやキンドリルジャパンといったベンダーに加え、決済基盤に強みを持つフィンテック企業のインフキュリオンとタッグを組む。金融機能の提供だけでなく、地方公共団体などとデータ共有モデルをつくり、互いに利活用できるビジョンを描く。


基盤は、アジュールとグーグルクラウドプラットフォーム(GCP)のマルチクラウドで検討する。マルチプラットフォーム化をすることで対応。メインとバックアップをクラウドベンダーで使い分け、外的要因のシステム障害をゼロに近づけていく。


BaaS(サービスとしての金融)基盤を整備し、エンベデットファイナンス(組込み型金融)の展開に取り組む。決済や貸出機能をAPI(データ連携の接続仕様)で富山・石川・福井の北陸3県に限らず、事業者に提供。主要な取引先である中小企業には、業種別に金融機能をセットしたスマホアプリを用意する。


勘定系部分は効率性を高め、クラウドネイティブに開発できるようリプレイス。開発や運用にはAIを取り入れる。例えば、プログラムコードの7~8割を自動で生成。障害の検知やオペレーターへの連絡、復旧などの自動化を目指す。


サブシステムは「IBプラットフォーム」に統合していく。「パッケージのように、かゆいところまで手が届く必要はない」(新谷執行役員システム部長)と、機能をシンプルにして統合基盤に集約。内製化による生産性を一層高める。



北国FHDはクラウドのメリットを最大限に発揮し、地元企業の生産性向上などに貢献する(同社提供)

リソースを顧客接点へ


協業先のビプロジーは北国銀に加え、紀陽銀行で勘定系をクラウドに移行したノウハウを持つ。抵抗感を抱える金融機関が少なくない現状を、「『パソコンなんかで勘定系が動くわけないだろ』と言われていた、07年頃にオープン化したときと同じパターンだ」(稲葉啓輔ファイナンシャル第三事業部ビジネス企画部長)と述懐する。同社は安定的に稼働しているという実績を踏まえ、今後の一般化を見通す。


「BankVision  on  Azure」で得られたメリットとして、「ハードの老朽化による交換の見積もりなど、投資意欲の芽生えないものがなくなった」(加藤雄也同部営業二部長)点に着目する。クラウドの場合、ハードのメンテナンスは提供側が担うため、永続的に使用可能。顧客接点の高度化といった前向きな取り組みにリソースを充てる環境が整う。


クラウドベースのサービスに注力するため2月10日、「ファイナンシャル・サービスプラットフォーム」構想を打ち出した。「コスト最適化」「新しい顧客接点」「データ利活用」といった攻めと守りのIT投資を両立する。今後、このアーキテクチャー(論理的構造)にのっとったサービスを展開するほか、既存ソリューションも順次対応していく方針だ。


アーキテクチャーは、(1)カスタマーサクセス(2)ソリューション&レグテック(3)バックサービス(4)コーディネート――で構成する。第1弾で、顧客接点を担うカスタマーサクセスの高度化プロジェクトを開始。特にクラウド前提の領域とし、新規事業への参入や、海外製ソリューションの採用にも生かす。


これまで同社単独だったクラウド勘定系の稼働が22年11月、NTTデータの「統合バンキングクラウド」構想をきっかけに、新たな局面を迎える見通しとなった。

すべての記事は有料会員で!
無料会員に登録いただけますと1ヵ⽉間無料で有料会員向け記事がご覧いただけます。

有料会員の申し込み 無料会員でのご登録
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

関連キーワード

DX 実像

おすすめ

アクセスランキング(過去1週間)