日銀総裁候補の植田氏、金融政策「物価基調で判断」 緩和継続訴え 

2023.02.24 20:13
金融政策 日本銀行
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国会で所信表明する日銀総裁候補の植田氏(2月24日、衆院議院運営委員会)

日本銀行の次期総裁候補の植田和男・共立女子大学教授(71)は2月24日、国会で所信表明し、与野党議員の質疑に応じた。副総裁候補の内田眞一・日銀理事(60)と氷見野良三・前金融庁長官(62)も同日、自身の考えなどを答弁した。


植田氏は同日午前、衆議院の議院運営委員会で所信表明に臨み、足元や先行きの内外経済について、「コロナ禍からの持ち直しつつあるが、不確実性は極めて大きい」と強調。総務省が同日に公表した1月の消費者物価コア指数(生鮮食品を除く総合指数)が前年同月比4.2%を示すなど、物価が日銀の目標である「2%」から乖離する現状に対しては「2023年度半ばにかけて2%を下回る水準に低下する」と、コストプッシュによる一時的要因を主とする日銀の見通しを踏襲。「(物価目標を)持続・安定的に達成するまでには、なお時間を要する」とし、「日銀の金融政策は適切である」と緩和姿勢の継続を訴えた。 


「2%目標」見直し否定


議員質疑の答弁では大規模金融緩和の効果について、「実質金利の引き下げを通じて企業収益や雇用の改善に貢献し、デフレではない状況を作り上げた」と分析。現行政策の功罪など包括・追加的な検証は「(総裁就任後)他の政策委員と相談のうえ、必要に応じて行っていきたい」と実施を否定しなかった。一方、「2%目標」などを明記する政府・日銀の共同声明では足元の物価動向を踏まえ、「表現を変える必要はない」と見直しの必要性を退けた。 


今後の金融政策については、「インフレ率の〝先行き(見通し)〟に基づいて運営すべき」とし、物価の「基調」判断の重要性を繰り返し主張。「どの指標をみれば(基調が)わかる」といった具体的な指標の言及は避けたが、これまで日銀が重要視してきた消費者物価指数の「コアコア(生鮮食品とエネルギーを除く総合指数)」など、一時的要因によるブレの影響を除いた指標を念頭においたものとみられる。


そのうえで、2%目標の達成には一定の距離があるとしながら、「基調的に良い動きが出ている」との見方を示し、物価動向をにらみつつ、中期的なスパンでの正常化の歩み出しを匂わせた。


将来的な「出口」の手法・手段では、「保有国債の売却」の可能性を否定し、「日銀当座預金の(付利)金利を引き上げていくやり方になる」と具体的手段を提示。その際に生じる、日銀の収益面での逆ザヤ(金融機関に対して支払う金利が、日銀の受け取る保有国債の利息を上回る状況)に関して、「(債券関連の)引当金を積んでいる」と市場の懸念を拭った。 


半面、保有ETF(上場投資信託)は満期償還がないといった債券と異なる商品性を前提に、その扱いなどについて「大きな問題」と指摘。具体的な対応は「出口」の局面で協議・検討するとの発言に終始した。


平時の情報発信を重視


22年12月の「政策修正」で一段と批判の高まったマーケットとのコミュニケーションでは、経済情勢の急変局面など「時と場合によってサプライズ的になることがある」と政策判断の難しさを勘案しつつ、政策判断に至った経緯や背後にある考え方を丁寧に説明するといった対応で「(市場などへの影響を)最小限に食い止めることができる」と〝平時の情報発信〟の大切さを強調した。 


副総裁候補については、大規模緩和下の金融政策に携わってきた内田氏の知見や、国内外の金融行政・規制に長年、関わってきた氷見野氏の手腕に期待を寄せ、「非常に心強い」と総括した。




所信表明する内田・副総裁候補(上)と氷見野・副総裁候補(下、2月24日、衆院議院運営委員会)

同日午後には、副総裁候補2人が同委員会で答弁。内田氏は「日銀が直面している課題は、副作用がある緩和(政策)を見直すのではなく、いかに工夫を凝らして効果的に金融緩和を継続していくかということ」と、マーケットや金融機関経営に配慮しつつ、これまでの経験を生かした機動的な政策運営を意識。氷見野氏は、日銀法に照らし合わせ、「毎年、少しずつでも生活がよくなっていくという展望と実感が得られる経済の実現を国民は期待している」と方向性を述べた。また、金融システムの安定に対して「海外では隠れていた脆弱性が表に出る事例もいくつかある」と世界的な金融政策の転換期におけるモニタリングの重要性を訴えた。

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