次期日銀総裁、植田・元審議委員の起用明らかに

2023.02.10 23:55
役員人事 日本銀行
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政府は、日本銀行の黒田東彦総裁の後任に、元日銀審議委員で共立女子大学教授の植田和男氏(71)を充てる人事を固めた。2月10日、複数のメディアが報じた。副総裁には内田眞一・日銀理事と氷見野良三・元金融庁長官を起用することも明らかとなった。14日に人事案を国会に提示し、衆参両院の同意を得たうえで正式に任命する見込み。


植田氏は静岡県出身で、東大、マサチューセッツ工科大大学院卒業後、経済学者として東大教授などを歴任。日銀法改正(1998年施行)初期の審議委員として約7年間、金融政策運営に携わった。「グラフなどを用いながら問題提起し、そこから議論が発展していく会合も少なくなかった。当時の金融政策の議論において、植田委員抜きでは成り立たないほどの役割を果たした」(明治安田総合研究所の小玉祐一氏)と、速水優、福井俊彦両総裁の下、「量的緩和」「ゼロ金利」といった政策判断・運営を理論面から支えた。


退任後も、日銀金融研究所の特別顧問を務めるなど「金融政策の研究により力を注ぎ、日銀との距離も近い人物」とみられ、「日銀の執行部は仕事がやりやすいのではないか」(市場関係者)。現行の金融政策について、同研究所に宛てた寄稿文などでは、大規模緩和政策に一定の理解を示しつつ、「限界」も指摘。「効果と副作用を理論面から十分に検討せずに講じる今の政策には否定的」(野村総合研究所の木内登英氏)とみられる。


副総裁への起用として名が挙がった内田氏は、黒田東彦総裁の下、大規模緩和政策を実務面から支えた。12年から約5年間、企画局長を務め、「異次元緩和」「マイナス金利」の導入・運用などに携わり、18年の理事就任後も企画局のほか、中央銀行デジタル通貨を研究する決済機構局(決済システム課)や金融市場局の担当役員として、政策運営の主要ポストに身を置く。


また、元金融庁長官の氷見野氏は、大蔵省入省後、監督局銀行第一課長や金融国際審議官を歴任。金融機関の国際ルールなどを協議するバーゼル銀行監督委員会で日本人初の事務局長も務めた。金融政策の世界的な転換点に突入し、金融システムへの目配りの重要度が高まるなか、「金融機関との関係がより重要になっている環境で適任」(金融庁関係者)との見方もある。


全くのダークホースだった――。財務省(大蔵省)と日銀の出身者による「たすき掛け」人事が慣例だった総裁ポストに、前例のない「学者」が就任するという報道を、市場は〝サプライズ〟として受け止めた。ただ、日銀、財務省(大蔵省)出身者が枠を埋めた副総裁候補の顔ぶれを含めると、納得感も広がる。「いずれも〝次の次〟の総裁候補という意味合いを併せ持つ形で、日銀・財務省が推薦し、首相が受け入れた」(アナリスト)といった見方も少なくない。


次期正副総裁の人選が固まるなか、実際の就任にはハードルもある。特に、前例のない学者出身者が総裁に就くことについて、積極的な金融緩和を提唱してきた〝リフレ派議員〟の賛同など与党内での説明・調整が焦点。第一生命経済研究所の熊野英生氏は「与党内での賛成が得られなかったり、国会同意で造反が起こらないともいえない。名前が明らかになった人が通るとは限らないのが総裁人事」とみる。


最有力候補だった雨宮正佳・現副総裁の名は挙がらなかった。「政策金利を上げても下げても〝半分〟の人の批判を受ける。総裁ポストは外の人が思っているほどやりたいポジションではない」(元日銀幹部)。特に、長引く異次元緩和によって、日銀のバランスシートは格段に膨らみ、イールドカーブ(利回り曲線)も人為的な制御によって、機能度は著しく低下。次期総裁下の最大のテーマである金融政策の正常化は「義務感や使命感を超越した想像を絶する難しさがあり、強い要請があったとしても引き受けないだろう」(同)。

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