コロナ4年目、ゼロゼロ融資の出口を探る<後編>

2023.01.05 04:45
新型コロナ関連 ゼロゼロ融資
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信用保証協会

新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、間もなく4年目に入る。ゼロゼロ融資の返済が本格化する2023年は、中小企業の過剰債務問題が顕在化する懸念があり、出口戦略が最大の課題となる。2回連載の後編では、出口に向けて動き始めた地域金融機関の取り組みを紹介する。(この記事は約7分で読めます。前編はこちらからご覧になれます)


ゼロゼロが有利子負債の返済原資に
養殖業


地方に拠点を置くある信用金庫は最近、取引企業の顧問税理士に苦言を呈した。この税理士は養殖業を営む企業に対し、ゼロゼロ融資が無利子のうちに他の有利子負債を返済するよう指導していた。自然環境に影響されやすい第一次産業は与信リスクが高いため、平均よりも高い年2%台の貸出利率を設定しているが、それをゼロゼロ融資の借入金で返済するのはモラルハザードだと判断したのだ。「この先、仮に当該企業の経営環境が厳しくなって(新規のプロパー融資を)申し込んできても、慎重に対応せざるを得ない」と示唆し、その税理士に今後の行動の是正を求めた。


関西地区の地方銀行支店長は「ゼロゼロ融資の借入金を(金融資産の)投資に充てていまい、返済原資がない企業が複数あると聞いた。月次の試算表を見れば分かることだが、金融機関が把握していないケースがあり、保証協会もトレースはしていない。そうした事実が返済開始に伴って発覚すれば、倒産を免れないだろう」と警戒する。


同じ地銀の別の支店長は「(ゼロゼロ融資は)返済不要と誤認している企業すらある」と明かす。


人手不足は外部連携で補う


今後は経営改善を要する事業者への伴走型支援や本業支援が求められるが、店舗や人員のリストラを進めてきた地域金融機関ではマンパワー不足がボトルネックになりかねない。それを補う方策の一つが、外部機関との連携だ。


茨城県信用保証協会は、ゼロゼロ融資の利用企業のうち経営再建が厳しい先のリストを作成し、金融機関にも提供している。そのうえで、信保協と金融機関の担当者が個別企業を同行訪問し、伴走型支援を展開している。対象企業の数が多いため、金融機関に依頼するケースも少なくないが、「どのような支援が必要なのかを金融機関から聞いて、(信保協から当該企業に)専門家を派遣していく」(同信保協)考え。


日本政策金融公庫が20年8月から開始した「コロナ資本性ローン」は、協調融資の提携金融機関が増えており(22年8月末で89金融機関)、総額は約9000億円に達している。ローン期間は最長20年と長期にわたり、なおかつ元金一括返済のため、企業側の需要は大きい。半面、金融機関にとっては貸し倒れリスクが高くなるため、日本公庫はメインバンクである民間金融機関の支援姿勢を与信審査の重要な判断材料としている。ON中小企業活性化協議会の相談件数推移


全国の中小企業活性化協議会(旧中小企業再生支援協議会)が22年4~9月に受け付けた借り手企業の相談件数は3386件となり、22年度通年では過去最多だった20年度の5580件を上回る見通し(上の表参照)。ただ、本格的な再生計画を策定するには時期尚早な企業が多く、再生案件の約9割は返済猶予などのリスケジュールが占めている。同協議会の全国本部で統括事業再生プロジェクトマネージャーを務める加藤寛史氏は「既存債務の返済猶予期間を延長する場合でも、ただ単純に手続きを進めるのではなく、猶予期間に事業者自身がどう再建に取り組むのかを話し合うことが重要になる」と助言する。


将来性なければ廃業支援も


再生局面では「どんな企業でも100%救済できるわけではない」(識者)という指摘もある。ビジネスの観点から将来性がみえない企業に対しては、借金をこれ以上膨らませないために、M&A(合併・買収)や廃業支援を通じて事業継続の断念を提案する勇気も必要となる。


関東地区のある信金では、22年4月から約7000社の全融資先を支店長が訪問。コロナ禍に加えて、原材料高や人件費上昇などの負担も重なる中で「あきらめ型の倒産や廃業もぽつぽつ出てきている」(同信金の理事長)という。この理事長は「訪問活動を通じて廃業を考える経営者の情報を事前につかみ、(第三者承継などで)次の経営者につなぐことも我々の仕事」と強調する。閉店のお知らせ


パチンコ店の廃業も相次いでいる。産業の斜陽化が進むなかでは、地場のパチンコ店が大手に対抗して遊技台を増やすなどの設備投資をするのは難しく、「店舗をドラッグストアに売却するなど、事業継続よりも閉店を選択する業者が増えている」(地方信金の営業推進部長)という。


東北地区のある信金では、コロナ前から経営が厳しかった旅館のM&Aを支援している。同業他社に事業を売却するが、旅館は存続させて、現経営者も従業員として残る予定。1月中に手続きが完了する見通しだ。


肥後銀行は、比較的規模の大きい企業には本部の企業支援チームが「ビジネスモデルの変革やコスト削減などをサポートし、アフターコロナに対応できるようサポートしている」(笠原慶久頭取)。


3年前はゼロゼロ融資の一律的な推進を通じて、地元企業に資金を行き渡らせることが喫緊の課題だった。今後は個別企業ごとに業績の回復状況や事業継続の意思などを見極めながら、借り換えや廃業支援も含めて支援メニューを使い分けるフェーズを迎える。出口に向かう道のりは平坦ではなさそうだ。


 


特別インタビュー「出口への課題」


中小企業活性化全国本部 統括事業再生プロジェクトマネージャー 加藤 寛史氏


活性化協議会 加藤氏


――コロナ下での相談件数の推移は。


「年間相談件数の過去最高は、コロナ禍が始まった20 年度の5580件。今年度は22年4~9月の上半期だけで3386件となり、単純計算では年間6000件を超える。内容はポストコロナに向けた相談に加え、原材料・原油価格の高騰や円安の影響による窮境が目立ってきている。今後は、ゼロゼロ融資の据置期間が終了して返済の始まる企業が増えてくるので、引き続き相談ニーズは高まっていくだろう」


――22年4月に中小企業再生支援協議会と経営改善支援センターが統合され、中小企業活性化協議会が設置された。改組後の再生手法に変化はあるか。


「再生支援協議会は中小企業の再生支援が主体だったが、今は再生局面の前段階として収益力改善に取り組むところまで間口を広げている。支援件数は収益力改善支援の方が多いが、再生支援の件数も昨年度と比べると増加している」


――収益力改善支援の内容は。


「事業者自身が収益力改善にどのように取り組むかというアクションプランの策定を活性化協議会が支援する。メインバンクのサポートを受けるケースや、専門家を活用するケースもある。アクションプランを実行していく過程で、必ずしも全てがうまくいくわけではないので、取引金融機関には数字面などのモニタリングも期待したい」


――ゼロゼロ融資の過剰債務問題に関する相談は顕在化してきているか。


「特に目立って顕在化してきているとは感じていないが、潜在的には過剰債務状態の事業者は多いと思う。ただし、過剰債務というのは収益力に比した相対的な概念。現在はコロナ禍の長期化だけでなく、原材料高や原油高なども含めて外部環境が相当厳しく企業の収益が低下している状況下では、どうしても過剰債務状態の事業者が増える。そのため、まず取り組むべきは収益力を高めることであり、収益が高まればその分だけ過剰債務も軽減される」


――再生支援の状況は。


「足元では、再生支援の6、7割が『プレ再生支援』というスキームだ。プレ再生支援とは、本格的な再生計画を立案する前段階のリスケジュールであり、期間は最長3年。外部環境が厳しい状況の中で、まずは収益力の改善に取り組む期間が必要であり、最長3年の間に安定的にキャッシュフローを生み出せる環境をつくる狙いがある。そのうえで、改善した収益を基準に判定される過剰債務については、債務減免やDDS(デット・デット・スワップ=負債として扱われる借入金を劣後ローンに借り換えて、資本とみなされる資本性借入金へと変換する再生手法)などの財務リストラで手当てするのが一番自然な流れとなる」


――取引金融機関経由で事業者の相談を受け付ける「持ち込み案件」は増えているか。


「地域差はあるが、全体的な印象として、目に見える形で積極的に持ち込まれているという状況ではない。その一方で、事業者から活性化協議会への直接相談は増えており、最近は約半数を占めている。直接相談は小規模な事業者が多く、既に再生の手立てが限られる状態まで経営内容が悪化しているケースも散見される。事業者自身がやむにやまれず相談に駆け込む前に、近い距離にいる取引金融機関や顧問税理士などが早いタイミングで相談を促すというのが本来の望ましい姿だ。マンパワーの問題もあるだろうが、早期かつ積極的な取り組みを期待したい」

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