【詳報】「税制改正大綱」決定の舞台裏 金融関連で攻防

2022.12.23 04:45
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税制改正大綱
与党大綱をとりまとめ、会見する自公両党の税調会長(12月16日、衆院第二議員会館)

2023年度の税制改正大綱がまとまった。NISAは恒久化や投資枠の大幅拡充が決定。金融機関の回転売買勧奨に対する懸念から批判が多かった一般NISAも、金融庁が監督強化や対象商品絞り込みの方針を示し、成長投資枠として残る結果になった。一方、超富裕層向けの増税が決まるなど、部分的には経済成長に向けた懸念も残る格好に。金融分野では期限を迎える制度の延長が決まった項目も多く、暗号資産税制の改正も進んだ。


成長枠の商品絞り込み


NISAはつみたて・成長投資枠を合わせて年間360万円までの投資が可能になり、一人あたり1800万円の生涯投資枠が設定される。金融庁は一般NISAを刷新して創設する成長投資枠を健全な資産形成の手段として活用してもらうため、金融商品取引業者向けの監督指針を改正。これまでもNISAに関する留意事項を設けて制度の趣旨を踏まえた営業を求めてきたが、成長投資枠を活用した回転売買を明確に禁止する。


成長投資枠の商品は、政令で絞り込む。投資信託については、つみたてNISAの対象商品を決めるために設けている租税特別措置法の施行令を準用する方向だ。


具体的な要件は、(1)信託契約期間20年以上(2)運用にデリバティブ取引を活用しない(3)毎月分配型でない――の三つ。公募投信は約6千本あるが、この要件を当てはめることにより成長投資枠で購入できるファンドは2千本台になる見通し。


ただ、運用会社がより多くの自社商品を成長投資枠で販売できるようにするため、制度開始の2024年までに商品設計の見直しが相次ぐことも想定される。株については、上場廃止になる可能性が高い監理銘柄や整理銘柄を除く。


政府・与党内でつみたてNISAの拡充は当初から既定路線だったが、上場株の短期売買も可能な一般NISAをめぐっては意見が分かれていた。与党の税制調査会には廃止・縮小論も根強く、金融庁や自民党の財務金融部会は「一般型を残さなければ日本株への投資が広がらず経済成長を促す制度として機能しなくなる」として必要性を強調。同庁幹部は「NISAで回転売買を促す金融機関が増えるとは思えず、監督で対応したい」と訴えた。


続くか富裕層向け増税


NISA拡充の裏側で決まったのが、所得が約30億円を超える超富裕層向けの付加課税。年間所得から3億3千万円を控除し、控除後の金額の22・5%が通常の所得税額を超える場合に差額の納税を求める制度が25年分の所得から始まる。


この議論は「金融所得課税の見直し」として始まり、税率20%の一律引き上げなども懸念されたが、自民党の”金融族”らが「市場に悪影響を与える」と反発を繰り返してきた結果、影響する納税者が200~300人と見られる制度内容で着地した。土地の譲渡で所得が10億~20億円に達する納税者は固定資産税を負担していることも踏まえ、「30億円」という水準が決まった。


ただ、同党の金融族からは「日本をけん引してきた実業家を狙い撃ちする格好になってしまった」と、今回の結果を悔やむ声が聞かれる。今回の税制改正大綱には、保有する株式を売却してスタートアップ企業への再投資に充てれば譲渡益が20億円まで非課税になる措置も盛り込まれている。それでも、「本気でスタートアップを増やしたいと考えているようには見えない税制になる」(関係者)という懸念が残る。


すでに、23年以降の議論を見据えた動きも出てきている。同党財金部会は「増税はこれで終わりというメッセージを発信すべき」(経済官庁出身議員)と警鐘を鳴らし、税調幹部らに方向性を示すよう要望。


だが、税調幹部から明確な回答は得られず、大綱には「更なる税負担の公平性の確保」へ引き続き検討を進める方針が示された。公明党の西田実仁・税調会長は「さらに踏み込むべきという意見も大変強い」と話している。防衛財源を確保するための増税でも大企業を中心に負担は増える見通しで、優遇・増税の対象を明確に分ける大綱になった。


暗号資産発行しやすく


税調の議論ではNISAや防衛財源に焦点が当たったが、金融分野で議論が進展した項目も多かった。その一つが、暗号資産をめぐる税制だ。企業が発行した暗号資産を自社で保有する場合、短期売買目的でなければ期末の時価評価課税の対象から外れる。これにより、事業成長に向けた暗号資産の発行が容易になる。


廃止が取り沙汰された教育・結婚・子育て資金の一括贈与に対する非課税措置も延長が決まった。延長を求める議員らによる「(廃止は)子育て支援強化に反する」という主張が浸透した。


23年3月末に期限を迎える予定だった再生可能エネルギー発電設備に投資するインフラファンドと、金融機関の短期資金調達を円滑にするレポ取引に対する非課税措置も存続する。実質的に法人税が非課税になるインフラファンド特例は、投資法人が再エネ設備を取得すれば投資家に対する配当の損金算入を認める制度。廃止を求める意見も出たが、同党財金部会が「GX(グリーントランスフォーメーション)を進める局面で廃止はあり得ない」(関係者)と訴えた結果、延長が決まった。債券貸し出しで現金を調達するレポ取引は国内金融機関と海外ファンドによる取引が対象。金融庁は恒久化を求めていたが延長にとどまった。ただ、延長期間は従来の2年から3年になる。同庁は今後も恒久化を求めていくと見られる。

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