バンカーを輝かせる業績評価 第3回 退職者が止まらない

2022.12.05 04:50
バンカーを輝かせる業績評価
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

離職を招く2つの要因


銀行から退職者が止まりません。


銀行は、お客様から大切なお金を預り、決済機能を有し、また貸出を通じて社会の血液を循環させる社会的意義が高い仕事です。また、銀行員の給与水準も相対的に高く、長く働く環境としては魅力的な仕事と言われていました。ではなぜ、人が離れるのか。以下、営業現場目線で検証します。


私が考える退職が増えている要因は、大きく2つあると考えています。


1. お客様不在、収益ありきの営業体制への落胆


2. 旧態依然の銀行組織風土への失望


顧客不在、収益ありきの営業体制


足元の銀行は低金利の長期化、人口減少など外部要因が引き金になって厳しい環境が続いています。そのなかでは、銀行はどうしても収益編重の業績評価推進をせざるを得ないというのが切実な本音でしょう。一方で、このような評価体系では、部店全体の収益目標や自身の収益目標が全ての行動起点にならざるを得ません。現場では、業績評価が高い項目に対して、「どのお客様に、何の商品を買って頂くか」という目線で、案件発掘やプロダクト選定を行います。


このようなプロセスでは、数字ありきのため「お客様ニーズ」という概念は後付けであるケースが大半です。その結果、「お願い営業」「顧客ニーズを拡大解釈した営業」を助長しています。その意味で、昨今の仕組債問題や不正事件は、発生するべくして発生しています。このような収益ありきの営業活動が「本当にお客様のためになっているのか?」と、銀行員のなかには、自分の価値を疑わざるを得ない状況に追い込まれます。


収益偏重評価が過度に行き過ぎると、現場は「今期良ければそれで良い」という考えに至り、収益計上の前倒しが盛んに行われ、将来の部店収益を細らせる結果になります。翌期はさらに目標達成が大変になること、お客様からの信頼低下に繋がること、は言うまでもありません。本業低迷は外部要因だけではなく、このような内部要因にも起因していると考えます。


旧態依然の組織風土


銀行員は本当に忙しい毎日を過ごしています。社会的意義が高いからこそ、銀行員は事務手続きや慣習に従う必要があり、それを逸脱することは一切許されません。その結果、社会的にもお客様にも信頼を得られる組織になっています。これは銀行にあるべき組織風土であり、私はポジティブに捉えています。


一方で、私が改善すべし組織風土として捉えている課題は、業務体力が本来お客様に向けた仕事に割かれるべきにも拘らず、銀行内部に向けた仕事にその大半を割かれる点です。銀行の仕事を大きく分類すると、銀行内部向け業務(稟議・報告・推進資料の作成、他部署連携等)とお客様向け業務(提案・事務・訪問)に分かれます。現場感覚としては、1日の2/3は銀行内部向けの業務に割かれており、お客様を考える時間が極端に少ない。銀行員は情報資産の持ち帰りが出来ませんから、早帰りを推奨されている足元において、極端に限られた時間のなかで検討を強いられます。


また、部署間の縄張り意識が強い風土も課題と言えます。営業部店や本部各部署が、「自分や自分の部署が一番可愛い」という考えに終始していないか、「支店が悪い、本部が悪い」のように責任のなすりつけをしていないか、是正する必要性があります。銀行は金融サービス業ですから、どのポジションの業務にも、その先にはお客様がおります。銀行員同士の縄張り争いほど、非生産的な活動はありません。


銀行員同士が協力し合い、お客様の課題解決に向けたソリューションを検討すること、その取引が実現した後の影響度合いを「今」のみならず、5年後10年後の「将来」に渡り、銀行がどのように関与すべきか検討する組織風土が生まれることを期待します。銀行員はどのレイヤ―でも必ず退職する日が訪れます。銀行の変革時期だからこそ、自身が入行した時の熱意と情熱に胸を張れるか、今こそ真剣に考える時ではないでしょうか。


私は、銀行と銀行員の仕事は尊敬に値すると考えており、昨今謳われる「将来性が低い」とは考えていません。お客様にとって一番近い存在である銀行と、お客様に金融サービスを届ける銀行員の輝きなくして、資産所得倍増計画の実現、並びに、銀行の安定的な収益基盤確保はサステナブルに起こりえないと確信しています。


NISAの恒久化、顧客本位の業務運営等の原則の法制化などは一つの施策であり、根本的な解決策とは異なります。お客様と対峙する銀行自らがその存在意義を再定義し、銀行員の行動指針である業績評価を見直すことが、将来銀行を背負う優秀な銀行員の育成と、お客様との深い信頼関係構築に繋がると考えています。


※次回は1月4日(水)予定です。


◆◆◆バックナンバー◆◆◆


第1回「金融庁レポートの意味」はこちら


第2回「改革という名の逆風」はこちら



日本資産運用基盤グループ 金融機関コンサルティング部長 直井 光太郎 氏


2010年早稲田大学教育学部卒。みずほ銀行入行。法人RMとして、主に大企業から中堅・中小企業への事業資金支援や、事業承継や組織再編支援、企業再生支援を行う。また企業オーナーへの資産運用提案や資産承継提案など、法人個人問わず、幅広い顧客ニーズに向き合い、行内表彰も数多く受賞。


21年日本資産運用基盤グループに参画。銀行や証券、運用会社の課題解決に向けたソリューション開発や提案活動を行う。

すべての記事は有料会員で!
無料会員に登録いただけますと1ヵ⽉間無料で有料会員向け記事がご覧いただけます。

有料会員の申し込み 無料会員でのご登録
メール 印刷 Facebook X LINE はてなブックマーク

関連キーワード

バンカーを輝かせる業績評価

おすすめ

アクセスランキング(過去1週間)