東海地区信金の「顧客向けサービス業務利益」 伝統的預貸金業務を追求

2022.11.01 04:40
金利 調査・統計
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金融庁が金融機関の収益力分析で用い、注目を集めた「顧客向けサービス業務利益」。地域銀行の低収益性が指摘されるなか、信用金庫の現状はどれほどなのか。本紙では、「貸出金利が低い」ことで知られる東海地区(愛知・岐阜・三重県)の信金に、この指標を当てはめ、全国の信金と比較した。



調査方法:比較対象に一定の統一性を持たせるため、預金量1兆円以上の規模に絞り、東海地区9信金(岐阜、東濃、岡崎、いちい、瀬戸、豊田、碧海、西尾、蒲郡)と、同地区を除く全国の預金量上位33信金を対象とした。計数はディスクロージャー誌の2021年度末実績を使用。通常の計算式とは経費部分が多少異なるが、「貸出金残高×預貸金利回り差+役務取引等利益-経費」で算出した。



東海は黒字化「ゼロ」


顧客向けサービス業務利益が黒字化しているのは、東海地区で「ゼロ」(調査対象以外の信金では、北伊勢上野信金のみ)。全国では13信金(39%)が黒字だった。その要因を探ってみると、預貸金利回り差が大きく影響している現状が見えてきた。


全国に響き渡る〝名古屋金利〟だが、全国との比較で、やはりその低さは突出している。預貸金利回り差の平均は、全国の1.44%に対し、東海地区は1.00%と44ベーシスポイントの差がある。東海地区で最も低いのは、豊田信金(愛知県)の0.88%。最も高いのは東濃信金(岐阜県)の1.19%だった。


東海地区の預金量1兆円以上信金の複数が、コロナ禍で影響を受けた取引先に「実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資を実行したことで、一般的には平均金利が低下したと言われているが、元々低金利だったこのエリアでは上昇した」というほどだ。


なぜ、これほど金利が低いのか。「自動車サプライチェーンを中心に潤っていて、財務内容が良い企業が多く、金融機関の進出・競合が激しいこと」が要因として挙げられる。地域銀を中心に激化する住宅ローン競争の影響も大きく「事業性資金よりも新規実行利回りが低い住宅ローン比率が上がっている」と分析する信金もある。



愛知県内を主戦場とした住宅ローンの獲得競争が激化。貸出金残高の増加に寄与している
愛知県内を主戦場とした住宅ローンの獲得競争が激化。貸出金残高の増加に寄与している

カギは「金利と役務」


全国の黒字化している信金に目を向けると、「預貸金利回り差1.50%以上」「役務取引等利益10億円以上」のどちらか、または両方が上回っている。その観点から見ると、東海地区では「役務取引等利益10億円以上」を大幅に超えていても、貸出金利が大きく響き赤字に陥っているケースもあるようだ。


「(同利益の)概念に違和感がある」「引当金などの管理コストも考慮されるべき」との意見があったため、貸倒引当金についても算出した。貸出金残高の平均で東海地区9信金が9485億円、全国33信金が1兆888億円と、約1400億円(1.14倍)の差にもかかわらず、貸倒引当金は東海地区の50億円に対し、全国は87億円で1.74倍となっている。


一概には言えないが、これは「財務内容が良い企業が多い」ことの裏付けとも、みてとることができる。このため「貸し倒れが少ない分のコストは抑えられ、利回りが低くても支障はない。顧客向けサービス業務利益が赤字であっても問題はない」との意見を展開する信金もある。


そもそも信金はどの程度、この指標を意識しているのか。「営利会社の地域銀と異なり、(収益を上げ過ぎない程度の)適正水準の利益で良い」とする見方が大半。「そこまで重要視する必要はないが地域からの支持でもある顧客向けサービス業務利益は無視できない」との意見もある。一方、碧海信金では少し異なる指標を用い、貸出金利息の強化を重要視した「顧客向けサービス業務粗利益」を主要計数目標の柱に位置付けている。


王道は「貸出金増強」


「同指標を何が何でも黒字化しなければいけないわけではない」としながらも「収益力は永遠のテーマ」である。貸出金のボリュームアップや利回り改善、手数料収益増、経費削減の推進は共通認識のようだ。


同利益の増加に向けて最も重視する項目を調査したところ、有効回答のなかでは「貸出金残高増加」が5信金、「貸出金利回り改善」が1信金、「手数料収益強化」が1信金だった。


経費の面では、人件費と物件費が、ともに東海地区が全国の平均を下回っているものの、店舗統廃合などのコスト縮減策は引き続き進める考え。手数料の増強は不可欠ながら、王道は「伴走型でのコンサルティング機能発揮による貸出金増強」のようだ。利回りの改善ハードルが高い点からも、「伝統的な預貸業務の追求」を挙げる声は多い。


東海地区は、特に規模が大きい信金が多く〝信金王国〟とも称される。それだけ地域に根差した経営をしている裏返しとも言えよう。今後はアフターコロナに向けた事業者支援など、一段の真価発揮が求められる。厳しい競争環境下でも存在意義を貫くには、伝統的金融業務のさらなる深化がカギにかりそうだ。

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