バンカーを輝かせる業績評価 第1回 金融庁レポートの意味

2022.10.03 04:45
バンカーを輝かせる業績評価
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「収益一辺倒」の業績評価


銀行員という職業は、一生涯を捧げるに価値のある素晴らしい仕事であるーー。これは、筆者がこの連載を通じて、銀行員や銀行員を目指している方々に伝えたい内容です。


「銀行員という仕事のやりがいは何でしょうか?」


その答えは「お客様の人生に寄り添い、それに資する適切な金融商品の提案を行った上で、お客様の課題解決、その目的を実現した際に、お客様から感謝の言葉を頂くこと」という内容が大半だと思います。「上司に認められたい」「出世したい」「高い給与が欲しい」という個人の名誉や欲求に関連することを口にする銀行員は、私はメガバンクを退職するまでの11年間出会ったことがありません。綺麗ごとではなく、銀行員の多くは、お客様から感謝の言葉を頂くことをやりがいに業務に臨んでいます。


しかし、この銀行員のやりがいに水を差すのが銀行の論理、つまり、〝業績評価〟です。低金利の長期化、人口減少などを背景に、現在の銀行の業績評価は、まさに「収益一辺倒」と言っても過言ではない、まさに「稼げ」の一言に尽きます。稼げない銀行員に未来は無いと全員理解して仕事をしています。そのような業績評価の下、銀行員は必然的に、稼げるお客様に飛び付きますし、稼げない顧客に関心は無くなることは本音でしょう。本当にそれで良いのでしょうか?


仕組債販売で浮き彫りになった課題


2022年6月に金融庁より『投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について』が公表されました。そのなかで、金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則」を踏まえ、顧客セグメントを意識した経営戦略に基づく創意工夫を実践している販売会社があるとしつつも、販売態勢面での実践や取り組み方針等の「見える化」に課題が残る販売会社も多いと警鐘を鳴らしています。


一方で、銀行側は個人目標について、「収益目標から残高評価へ移行する」と大々的に宣言するも、投資信託や保険が販売低迷したことを受け、舌の根も乾かぬうちに「収益評価」を復活する等、模索状況が続いています。その模索状況を象徴するかのように、直近では「稼ぐ」商品の象徴であった仕組債は、鳴り止まないお客様からのクレームを受けた金融庁の問題提起を背景に、販売中止を決定する銀行が続出しています。「仕組債」という商品が悪いのでしょうか?


改善すべきは銀行員を動かす唯一無二の存在、〝業績評価〟です。金融庁は「何も稼ぐな」とは言っておりません。顧客のライフプランに応じた適切な金融商品の提案とアフターフォローを実施する。つまり、銀行の論理を顧客に押し付けるのではなく、顧客が本当に必要とするサービスを検証し、提供することを望んでいます。


よって、「収益評価から残高評価への移行」のみでは、原則7で掲げる「従業員等に対する適切な動機付け」という観点では、銀行ビジネスとしても、銀行員のやりがいとしても不十分です。今の銀行に必要なことは、銀行員のやりがいと成長を促す新しいビジネスの発掘と、それと整合的な業績評価制度への抜本的な見直しが急務です。※次回は11月7日(月)予定です


 


日本資産運用基盤グループ 金融ビジネスアナリスト 直井 光太郎 氏


2010年早稲田大学教育学部卒。みずほ銀行入行。法人RMとして、主に大企業から中堅・中小企業への事業資金支援や、事業承継や組織再編支援、企業再生支援を行う。また企業オーナーへの資産運用提案や資産承継提案など、法人個人問わず、幅広い顧客ニーズに向き合い、行内表彰も数多く受賞。


21年日本資産運用基盤グループに参画。金融ビジネスアナリストとして、銀行の課題解決に向けたソリューション開発や提案活動を行う。

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