【実像】BaaSで拓く金融(下)収益化する新たな価値創造

2022.09.22 04:45
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恵那市では、金融機能を活用したDXを進めている(6月21日、同市役所)

EC(電子商取引)サイトを始めとした事業者とつながることで、イノベーションが期待されるBaaS(サービスとしての金融)。インターネット専業銀行などで活用が進みつつあるが、国内では活用事例の乏しさから金融界で浸透が遅れ、手探り状態が続いていた。だが、ここにきて地域金融機関やパートナーを担うITベンダー、プラットフォーマーの間で構想が具現化し始めている。


地域振興券でデジタル化


NTTデータとインフキュリオンは8月、岐阜県恵那市のプレミアム付き地域振興券で、キャッシュレスを通じた地域全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を開始した。市民は銀行口座からスマートフォンなどを使って直接購入(チャージ)することで、シームレスな振興券の交換を実現。これを裏で支えるのが、指定金融機関を担っている十六銀行だ。


11月に始まる現金からのチャージで活用するのは、スマートフォンアプリを使ったQRコード決済サービス「Bank Pay」だ。接続先ごとに異なる仕様の更新系API(データ連携の接続仕様)が不要なため、NTTデータのテクノロジー&イノベーション室の青柳雄一部長は「Bank Payは事業者が最短2、3カ月で準備でき、チャージならこちらの方が良いのではないか」と利便性を話す。10月から始まる少額送金専用インフラ「ことら」も同じ仕組みのため、キャッシュレス決済で活用が広がりそうだ。


同社では、スタートアップ企業らとのオープンイノベーションに注力しており、BaaS基盤はインフキュリオンの「Wallet Station」を活用している。QRコード決済などで直接、銀行口座から引き落とせるもので、(1)ウォレット(財布)(2)ユーザーアプリ管理(3)バックオフィス管理――の機能を備える。インフキュリオンの丸山弘毅社長は「銀行が持っていない価値を拡充していく」と方針を語る。


企業間取引にフォーカス


他のITベンダーでも、金融機関や行政のニーズに応えるため知恵を絞る。


次世代バンキングシステムなどを扱うフューチャーアーキテクト。地域金融機関の役割は「地域経済の根幹となる企業を支えること」(乾亮太取締役)と、企業間取引にフォーカスをあてたBaaSの提供を模索している。


例えば、ファイナンス機能を提供し、販売代金を入金前に現金化。「優良取引先の囲い込みや、入金遅れ解消、金融機関単独ではアプローチできない顧客とデータの獲得を図れる」という。


保険・証券分野で存在感を発揮しているのはFinatextだ。イネーブラー(BaaS基盤提供事業者)のほか、ライセンスを提供する例を含め、これまで9サービスの構築を支えた。伊藤祐一郎CFOは「周辺サービスと組み合わせてユーザーに提供する価値」を追求する。


インターネット宿泊予約システムを扱う「キャディッシュ」には、キャンセル保険をサービスに組込む。キャンセル費用を補償し、不確実なスケジュールなどで見送っていた利用者が、保険に加入することで予約しやすくなる。これによって、空室率が低下し、売り上げを伸ばすことができる。


資金の流れから最適提案



「BaaSは、これから生まれる価値を提供するもので、既存の顧客基盤を失う要因にはならない」(野村総合研究所金融コンサルティング部の伊部和晃氏)。その一方、チャネルや顧客接点(UI)は大きく変わる。


米国の代表的なイネーブラーである決済大手Stripeでは、企業がECサイトShopifyなどのプラットフォーム上で既に使用しているツール内で、資金管理口座へのアクセスを可能にした。金融サービスの領域で機能するソフトウェアを作成し、資金を完全に管理できる環境を整えており、金融パートナーとの連携を緊密にしている。


英国のイネーブラーFinastraでは、消費者にPOS(販売時点即時管理)の利用状況をリアルタイム化。決済のトランザクションを瞬時に処理し、クレジットカードよりも利便性を確保する。


その結果、海外の金融機関では、顧客の資金の流れをこれまで以上に把握しやすくなり、従来よりも適切なタイミングで金融商品を提案できるようになった。例えば、金融機能の提供先企業と契約を結び、「個人のPOSや法人のインボイス(適格請求書)で、何を買ったか」など資金の流れを追跡。資金需要が高まる最適なタイミングでの融資提案を実現する「レンディング3・0」に注目が集まる。また、ウェルスマネジメントにも活用でき、提供先企業の売り上げと合わせ、金融機関の収益にも貢献する仕組みが展開される。


提供先の企業囲い込む


こうした海外での先行事例を国内で実現するため、金融機関側に求められるのは、金融機能を組み込むことで運用する役割や分野において、どのようなユーザー事例が大きな価値をもたらすかを理解することにある。金融機能を提供することで実現したい価値に向けた戦略を立て、適切なパートナーと提携することが成功へのステップとなる。だが、「BaaSを検討しているが何をすればいいか分からない、という相談が寄せられている」(ITベンダー)のが現状だ。


連携で活用するAPIで、キーワードになるのは「パートナーAPI」。共通APIのようにオープンで提供するのではなく、自らの強みや弱点を補える企業とのみ接続を図るものだ。提供先の企業を囲い込むことでエコシステムを構築して自社のカラーを発揮することができ、懸念されているコモディティ化を防ぐ手段の一つになりうる。


国内でも、デジタル給与支払いが2023年にも解禁される方向で最終調整されるなど、ネット経済でのバリューチェーンにも対応した金融サービスの提供は急務だ。旧来型の預金・貸出・決済は「デジタルウォレット」「レンディング3・0」「ファースターペイメント(ことらなど)」に置き換わりつつある。増えるデジタルネイティブ世代との取引基盤を築くためにも、BaaSは有効な手段となる。


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