苦情に学べ 重要な顧客との面談記録
2024.08.03 04:10「苦情等」が発生し、金融機関と顧客の間で解決できない場合にはいわゆる「金融ADR制度」に移行し、紛争解決機関が問題解決に当たることはよく知られている。
では、この「金融ADR制度」について、どれくらい知っているだろうか。「自分は金融ADR制度の対象にならない」と思っていないだろうか。
証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)公表の「2023年度 紛争解決等業務の実施状況について」であっせん・苦情・相談の受付件数を見ると、苦情は減少、相談は微増なのに対して、あっせんの増加(前年度比49件、27.5%)が目立つ。こうした傾向は今後も続くと思われる。
7月現在、株式市場の好況感を反映し投信などを購入している顧客の含み損はそれほどではないと思われるが、ひとたび大きな経済変動(例えばリーマン・ショックなど)が発生すれば、たちまち市場の好況感は消え去り、大きな含み損を抱えた顧客はその不満を金融機関や担当者に向けてくることは過去の多くの事例が示している。
当然、こうした事例のいくつかは「金融ADR制度」に付されることになるだろう。その際に重要になってくるのが担当者と顧客のやりとりを記録した書面・記録になる。
顧客とのやりとりを記録として残すことの重要性について、担当者に研修などを通じて周知徹底していることと思われる。
しかし、現実はどうか。某金融機関においては、顧客へのリスク性商品の販売を優先するため、こうしたやりとりの記録をその日に作成することができず、なんと一週間以内に作成すればよいとされている。
みなさん、1週間前の記憶が明確に残っているだろうか。金融機関の担当者の言い分が正しいことを立証する、あるいは担当者の身を守る際に大きな役割を果たす面談記録の作成が、販売することが優先され記憶が薄れている状態で作成されれば、その後の「金融ADR制度」でどんな結果になるかは明確であろう。
過去の「金融ADR制度」に係る事例では、リスク性商品の販売で数十万円の収益を上げたが、その2年後の「金融ADR制度」のあっせんにおいて金融機関側が顧客に数百万円を支払った事例もある。
金融機関、担当者が正しい主張ができるように、営業を優先することなく、面談記録の正確性に舵(かじ)を切る時期ではないだろうか。
金融監査コンプライアンス研究所代表取締役 宇佐美 豊
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