連載企画「地域銀再編 新常態」 連動インタビュー  大森・元金融庁幹部に聞く 当局者がみた関西再編の真相

2021.11.09 04:41
経営統合・合併
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地域銀行再編の〝先進地〟である関西地区では、ピーク時に13行あった第二地方銀行が1行に減った。その背景には、どのような特殊事情があるのか。金融庁OB(元証券取引等監視委員会事務局長)で、関西の金融事情に詳しい大森泰人氏(63)に、過去からの経緯や現状の金融情勢に関する分析などを聞いた。(聞き手=国定 直雅)


――1999年7月から2年間、近畿財務局で理財部長を務めた時期は、金融危機の真っただ中だった。


「私が赴任した時、(金融機関の破たん処理のスペシャリストとして知られていた)西田直樹(元金融庁審議官、当時の肩書は近畿財務局金融監督官)さんは(近畿財務局勤務が)4年目に入っていた。99年5月に幸福銀行が破たんし、次はなみはや銀行(99年8月に破たん)を処理するというフェーズだった。後者は、大和銀行(現りそな銀行)の役員だった勝田泰久さん(2001年に頭取就任)と話をして、破たん後の最終的な受け皿のメドはついていた。一方、幸福銀は独立系だったため(有力な)受け手がなかった。米国トランプ政権で商務長官を務めたウィルバー・ロス氏が率いるファンドが、唯一の候補者という状況だった。『わざわざ数字の計算しかできないハゲタカ(ファンド)にやるのもなんだな』という気持ちが、日本の行政官としてはあった。ただ、当時の近畿の状況では、銀行を見渡しても受けてくれそうなところが見当たらなかった。そこで、近畿地区の大手信用金庫に行って、当時の会長と理事長に『幸福銀を買いませんか』という話をした。その時、先方は『業態をまたがる再編は画期的ですが、銀行という名前がついていた金融機関に、うちらの地べたを這(は)うような商売はできないと思います』という話をされたのを記憶している」


――近畿地区の第二地銀の数は、ピーク時の13行から現在は1行に減った。第二地銀のない都道府県は全国に14府県あるが、うち5府県が近畿に集中している。


「近畿という土地柄は、メガバンクも含めた多くの銀行が狭いところで〝仁義なき戦い〟をやっていた。私も西田さんも、(行政主導で)無理やり再編を進める考えはなく、小さければ小さいなりに堅実にやっていけばいいという考えだった。ただ、第二地銀の経営者の方(ほう)がむしろ、『(自行には)あまり特徴もないのに、これだけ競争の激しい地域で単独で生き残っていくのは難しい』という判断に傾きやすかった。その結果として、関西の銀行の数は現在の1県1行のような形に減っていったのだろう」


「みなと銀行だけは、少し事情が異なる。昔からの経緯で、兵庫県には第一地銀と呼べる銀行がなくなり、その役割を旧兵庫銀行(現みなと銀)が務めていた。関西みらいフィナンシャルグループ(FG)に入っても、(グループ内の他の銀行とは合併せずに)別の形でいるのは、それが兵庫県にとって必要だという判断なのだと思う」


「(近畿2府4県のうち)兵庫県以外の府県をみると、第一地銀が1行あれば十分という認識が、銀行側にも周囲にもあるように思う。約20年前の当時、(メディアが経営不安のある銀行の頭文字をとって)「FH2OK2(エフエイチツーオーケーツー)」と呼んでいたが、そうした経営体力が弱いところから真っ先に脱落していき、最終的に今の状態になっている」


――りそなホールディングス(HD)は、関西の地域銀再編で中核的な役割を果たしてきた。


「りそな銀には、昔から『関西の金融には一定の責任を負う』というメンタリティーがある。勝田さんとは、西田さんも私も関西の金融地図についてよく意見交換した。どうすれば安定的な金融構造になるのか話し合った。そういう大和銀のDNAが、今のりそな銀にも受け継がれている。あえて受け皿として(りそなHDの傘下に中間)持ち株会社(の関西みらいFG)を残しているのは、さらなる再編を想定している面もあるのだろう」


――近畿地区でさらなる再編はありそうか。


「(りそなグループの関西みらい銀行のルーツは)旧大阪銀行を除けば、ほとんどが第二地銀。周囲の第一地銀からすれば、そこと一緒にやるという考えにはなりにくいと思う。そういう意味では、さらなる再編が起きやすい地域ではないような気がする」


「ただ、近畿がほぼ1県1行となったことで地銀の抱える構造的な問題が解決したかというと、全然そんなことはない。再編が進んだ結果として、その地域の経済に対して本当にサステナブル(持続可能)な銀行になったとは言い難い現実がある。もちろん再編によって一定の効率化は進んだが、地銀問題を解決する手法として再編だけでは十分ではないという気持ちを、昔から強く持っている」


――確かに、再編だけでは地銀が抱える課題の根本的な解決にはなりえない。その解の一つとして、金融庁は長年、リレーションシップバンキング(リレバン)を唱えてきた。


「リレバンの推進を行政や国の側が言うのは、私はナンセンスだと思っている。銀行が借り手の企業を一生懸命みて、その企業の強みを把握し、担保や経営者保証に依存しないリレーションを築く。そういう問題意識を持っているところは既にやっているし、そうではないところはやっているふりをするだけ。(リレバンは)国が言うまでもなく、当たり前のことだ」


「近畿地区の銀行ではないが、去年、公的資金を受けた銀行の頭取2人と話す機会があった。いずれも資金規模の小さい銀行だ。さきほどの大手信金の話とも通じるが、両行ともに地べたを這(は)って信金のようなリレーションづくりを本気でやっていくという話だった。それを粘り強く繰り返して、(企業取引で)少しずつ利ザヤを広げさせてもらう。地味といえば地味だが、地を這(は)うようなビジネスを粘り強くやっていくことこそ、サステナブルではないだろうか。それくらいしか、(地銀問題を解決する)答えは見つからないような気がしている」


「(地域銀は)横並びで手数料ビジネスに力を入れているが、この国でそれほど大きなマーケットがあるだろうか。だから、お金を貸すという根っこのビジネスに、どれだけ付加価値をつけて、付加価値見合いの金利をいただくか(が大事になる)。経営が堅実な信金がやっているようなことを、地銀もやっていくしかないのではないか」


――地域金融を支えるりそな銀の存在感の大きさを考えると、03年に国が同行を実質国有化した際の公的資金の使い方は「きれいな使い方」だったと言えるのでは。


「〝実質国有化〟は、あくまでメディアが使った言葉だ。国が株式を半分以上持つわけだから、実質国有化というのはその通りではあるが。個人的には、実質国有化であれば(国から経営陣の一員として)誰かが行って(経営再建のメドがつくまで)管理するのだろうと思い込んでいた。そうであれば、近畿財務局での経験もあるし、絶対に自分しかいないだろうと。当時、私は産業再生機構の設立に携わっていたが、金融庁に戻って聞いてみたら、(行内でトップの)人を変えて間接統治するだけだという。その時は『なんて中途半端な』という印象を抱いた記憶がある。ただ、新生銀行などと比べれば、『きれいな使い方』だったという評価はできるかもしれない」


――地域金融機関の行職員は、構造不況業種といわれて自信をなくしている人も少なくない。なにか助言があれば。


「個々の企業からみれば、(与信判断を下す金融機関に)生殺与奪の権を握られていることは確か。銀行内の意思決定は、基本的には現場での企業との接触を通して、ボトムアップの判断で融資が行われている。有能な銀行員というのは、半沢直樹のように、相手がどういう人かに応じて一番ふさわしいアドバイスをして、そのビジョンを実現するようにインスパイアしていく人だと思う。結局は、その企業がやろうとしているビジョンや、そこで働く社員の意欲・能力をみて、それにふさわしいアドバイスをしていくことに尽きる。企業の成長や再建をどう支援するかは、現場の銀行員の判断にほとんど依存している。そういうビジネスは本来、非常にやりがいのある事業だと思っている」

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