実像 コロナ苦境 ともに闘う(下)再生支援は時間との勝負 対話で解決策導く

2021.10.15 04:22
新型コロナ関連 実像 事業者支援
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ホテルあかねの西山専務(左)と情報交換するさがみ信金の小澤代理(中央)と廣瀬真支店長(右、9月15日、ホテルあかね)
ホテルあかねの西山専務(左)と情報交換するさがみ信金の小澤代理(中央)と廣瀬真支店長(右、9月15日、ホテルあかね)

コロナ禍の長期化で先行きが見通せず、手元資金を厚めに調達した企業は少なくない。業況が改善しなければ融資は不良債権化する恐れがあり、地域を支える金融機関自身の体力も奪う。再生支援は「時間との勝負」になってきた。


年末にかけ倒産懸念


「融資は(延命の)時間稼ぎにはなったが、返さないといけない。特に個人営業の先はとても売り上げが回復しているとは思えない」――。静岡商工会議所観光・飲食部会長の久保田隆氏は危機感を募らす。


コロナの打撃を受けた業種への国内銀行の貸出残高は飲食業で32.6%、宿泊業では19.7%それぞれ増加。信金では、飲食業56.5%、宿泊業向けは9.9%増加した(日銀調べ)。実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」が資金繰りを下支えしたが、「コロナ前から業況が厳しく通常なら貸せなかった先も含まれる」(地域銀行)。官民一体の支援で、2021年4~9月の企業倒産は2937件(東京商工リサーチ)と上半期としては57年ぶりの低水準にとどまった。


ただ過剰債務問題が浮上するなか、業績不振が続く小規模企業を中心に返済が始まっており、「年末にかけて倒産件数は増える可能性がある」(東京商工リサーチの坂田芳博氏)。地域金融機関の間でも、増え続けていた法人預金の伸びが鈍化する傾向がみられ、「厳しい先が増えている兆しでは」と警戒感が広がる。


「包括担保」に課題も


借り入れが過剰な中小企業の債務整理支援策として、政府の成長戦略実行計画にも盛り込まれたのが「私的整理ガイドライン」。債務カットで商取引が継続できるなど事業者のメリットは大きい。議論に関わるメガバンク役員は「いたずらに時間をかけることは考えていない」とし、今年度中にも方針に道筋をつけたい考え。


一方、過剰債務の改善には「私的整理だけではなく、債権買い取りをもっと充実させたり、資本性資金の供給のメニューを増やしたりするなどの方法がある」が、制度作りは難航も予想される。


再生支援の枠組みでは、企業の事業価値全体を担保にできる「包括担保法制(事業性成長担保法制)」も注目される。不動産担保に偏重した融資慣行の是正が背景にあり、金融庁が導入を求めている。だが、大手行役員は「ある銀行が事業全体を担保に取れば、他の銀行が取引しにくくなる状況も発生しうる。事業者にメリットと言えるだろうか」と難しさを指摘。現場にとって実効性ある制度として活用されるには時間を要しそうだ。


それだけに取引先との〝深度ある対話〟で解決策を一緒に導くことが急がれる。事業者は、経営課題を明かせば与信審査に影響すると考え、「今後の融資にあまりにも不利な状況をさらけ出したくない心理が働く」(信金支店長)。交渉相手でなく相談相手になれる関係作りが欠かせない。


広島みどり信用金庫は既存先を「コア顧客」と位置づけ、渉外1人が一日に3先訪問することを徹底する。何度も顔を合わせることで事業者の変化を早く察知するためだ。浜松いわた信用金庫の高栁裕久理事長は「お客さまを知った上で真の意味での改善支援や事業転換、経営革新をサポートする」と話す。


伴走型支援では企業側に正確な財務データ開示や経営改善策の策定を促すことが成功の鍵を握る。


神奈川県湯河原町のホテルあかねは昨年度、4カ月間休館し売り上げは激減した。西山正一専務取締役はある時、女性客が仕事の合間に同ホテルでヨガを楽しむ様子をSNSで発信したのを見て、「ワーケーション客を取り込む」ことを思いつく。


屋上を改装し、相模湾を一望できる眺めを生かしたテレワーク専用のテラス席や部屋の設置を構想。「新規のお客さまだけでなく、既存のお客さまにもビジネスで引き続き使ってもらいたい」と、事業再構築補助金の獲得に動いた。サポートしたのは、さがみ信用金庫。中小企業診断士など専門家につなぎ、「ターゲット層や一日の見込み客、提供サービスの細部に至るまでを盛り込んだ実現可能性の高い計画ができた」(小澤貴史・湯河原兼宮上支店支店長代理)という。


ただ、こうした成功事例はまだ限られる。先が見通しにくい状況で「経営内部に入り込むには限界があり、行き詰まっている」と、もどかしさを抱える現場職員の声もある。


大阪シティ信用金庫の高橋知史理事長は、「法個人の顧客数は数十万件。コロナ禍前から千差万別の課題があり、金融機関だけで解決するには不十分。他企業や大学など知見を集めないと、真の伴走型支援はできない」と強調する。都内第二地銀の行員は「地域の金融機関同士が手を組む必要がある」と指摘。〝面での再生支援〟もこの先の課題となってくる。

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