関東地区金融機関、関東大震災から100年 地域・外部連携し備え厚く

2023.09.01 04:46
社会・地域貢献 防災・復興
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東京都慰霊堂では関東大震災発生100年を前に、東日本大震災の被災者が切り出した竹から作った灯籠(とうろう)に火を灯すイベントが開かれた(8月20日、墨田区)
東京都慰霊堂では関東大震災発生100年を前に、東日本大震災の被災者が切り出した竹から作った灯籠(とうろう)に火を灯すイベントが開かれた(8月20日、墨田区)

100年前の1923年(大正12年)9月1日、首都圏を中心に死亡・行方不明者が10万5000人に上った関東大震災が発生。日本銀行の「日本銀行百年史」によると、当時の東京市内にあった銀行支店310カ店のうち、71.5%にあたる222カ店が焼失した。現在は当時と比べ、インターネットやスマートフォン、電源供給設備、ハザードマップなど、防災や復興に生かせる社会基盤は多様化。活用する一方で、被災時には、そうした基盤の確保自体も課題となり、金融ネットワークもその一つ。被害抑制や復旧には、金融機関自身の対策のみならず、平時からの地域の災害耐性向上、被災地区外からの支援も不可欠だ。自治体や事業者と連携して備えを厚くする関東地区金融機関の取り組みを取材した。


 三菱UFJ銀、災害時優先運営40カ店 AIで拠点の浸水把握 


三菱UFJ銀行は、災害時の危機対策本部の設置や、全国で40カ店の優先運営、通信手段の重層的な確保など危機管理体制を整備。防災訓練やハザードマップ更新などを通じて行員の危機意識を喚起する。拠点の防災対策では、人工知能(AI)に強みのある外部企業と連携している。


首都直下型地震など甚大な災害時には、半沢淳一頭取をトップとする危機対策本部を設置(三菱UFJフィナンシャル・グループ全体に関わる場合は亀澤宏規社長が指揮)。全国40カ所の「優先立ち上げ店舗」を選び、発電機などの設備を充実させて有事に備える。



風向きや風速で変化する富士山噴火の降灰分布を確かめる三菱UFJ銀の本部担当者(8月8日、東京・丸の内の本店)
風向きや風速で変化する富士山噴火の降灰分布を確かめる三菱UFJ銀の本部担当者(8月8日、東京・丸の内の本店)

行員には業務用スマホを貸与し、課長以上は休日の携行を義務化。災害時のアクセス集中時も優先的に回線がつながる機能を搭載。通話不能の場合は衛星電話、無線機も用いるなど、重層的に対処する。パソコンでのTeamsやテレビ・電話会議システムといったツールも複数用意する。


防災意識の維持のため全行で3カ月ごとにアプリやEメールを通じ、安否確認の訓練を励行。避難場所の現地確認や津波対策拠点のセッティングは年1回実施。拠点ごとに毎年、ハザードマップを活用して避難計画書も作成する。地震や風水害のほか、富士山噴火に伴う降灰被害も想定したマニュアル策定の検討も進める。


同行は「テクノロジーを活用した防災体制強化」を課題に挙げる。すでにスタートアップ企業と連携し、SNSへの投稿情報をAIで分析して、拠点の浸水状況を把握できる体制を構築する。


今後も、デジタル技術の活用をさらに進める方針だ。


 


 地域銀、取引先と組み物資送る 台風教訓に止水板配備 


東京スター銀行では、6月に避難方法や職場待機時の注意点など、被災時の行員らの行動をまとめたハンドブックを作成した。就業時間内で建物損壊がない場合に東京都が定める、食料配布やトイレの利用、就寝方法などの説明を充実。スマホでの参照を想定している。


京葉銀行は、自治体や取引先と組み、災害時の物資供給や消毒、建物清掃などで連携する体制を構築。2021年9月の着手以来、千葉県の四街道市や香取市のほか、イベント用品レンタルやビルメンテ、建設資材などの7事業者が参画した。千葉県には被災状況の把握用にドローン11機を寄贈。23年4月には県職員に対する操縦講習会を開いた。



京葉銀が開いた千葉県職員向けドローン講習会(4月27日、千葉市のドローンスクール千葉幕張、京葉銀提供)
京葉銀が開いた千葉県職員向けドローン講習会(4月27日、千葉市のドローンスクール千葉幕張、京葉銀提供)

足利銀行は、19年10月の台風直撃を教訓に33カ店に組み立て式の止水板を導入。自治体のハザードマップに基づき、浸水50センチ以上のリスクがある拠点に配置した。保有する移動電源車は、被災状況に応じ、同じ「めぶきフィナンシャルグループ」傘下の常陽銀行と融通し合う。


地域の電気自動車(EV)シェアリング・プロジェクトを通じ、横浜銀行は、23年10月に愛甲石田支店(神奈川県伊勢原市)、24年1月には、連携する伊勢原市に各1台、EVを配置予定。災害時の電源供給も想定した取り組みだ。


八十二銀行は、最新の自治体ハザードマップを踏まえ、指定避難場所を見直し。土のう配布対象店を改めるなど、非常時に備える。


群馬銀行は、本部・本店と電算棟、営業店23カ店に非常用発電機を配置。遠隔地の店舗も含み、15時間稼働、2日間ほどの営業維持を想定。軽油発電の「電源車」2台で、移動供給にも対応する。


 


 信金・信組、児童向けに防災グッズ 自治体と歩調合わせる 


埼玉県信用金庫は8月21日、草加市や日本カーツーリズム推進協会と災害対策の協定を締結。同協会が被災時にキャンピングカーを同市に貸し、同信金は支店駐車場など車の設置場所を紹介する。


西京信用金庫が扱う東京都と連携した防災関連融資の実行は、約9年間で77億5000万円。国際協力機構(JICA)の依頼に応え、89カ国114人の防災担当官を受け入れている。


千葉県の銚子市と連携する銚子信用金庫は、市内の橋本支店と松岸支店の井戸水を、災害時の生活用水に提供。


銚子商工信用組合は、児童用防災グッズを町内会やNPO法人に40袋贈呈。食料や携帯トイレなどを収め、学校での被災時など、子供が保護者の迎えを待つ間に使う想定だ。


災害時の初動対応を念頭に、横浜信用金庫は19年から、本部や関連会社、全営業店に「ファーストミッションボックス(FMB)」を設置。内蔵の指示書に従うことで、スムーズな初動が可能に。年に一度、FMBの使い方や収めてある道具の使い方を確認する。



消防士からAEDの使用法を学ぶ来店客(7月27日、東京都足立区の足立成和信金皿沼支店)
消防士からAEDの使用法を学ぶ来店客(7月27日、東京都足立区の足立成和信金皿沼支店)

足立成和信用金庫は、本店のある足立区が耐震関連の助成金を増額したのを機に、地域との協働をさらに強化。7月には本木支店で放水訓練、皿沼支店では起震車による最大震度7の体験、地元消防署と自動体外式除細動器(AED)の操作訓練も行った。


城南信用金庫は、この1年で、スマホ充電のできる自動車の導入や簡易トイレの全職員分配備を実施。雨漏りからATMなどの機器を守るため、ブルーシートを全店に備えた。


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