山陰地区金融機関、「企業版ふるさと納税」で地域おこし

2023.05.10 04:06
寄付 社会・地域貢献
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山陰合同銀はエッグと協力して、松江市で企業版「ふる納」庁内セミナーを開いた(3月17日、松江市、提供)
山陰合同銀はエッグと協力して、松江市で企業版「ふる納」庁内セミナーを開いた(3月17日、松江市、提供)

山陰にヒト・モノ・カネを


人口減少スピードや、企業の後継者不在率が全国トップクラスの山陰地区。鳥取・島根両県は「課題先進県」と言われて久しく、地域の衰退に対する地元の危機感は強い。地域金融機関もその思いは同様で、地域振興へつながるさまざまな取り組みを積極的に進めている。「企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)」もその一つ。2016年に創設され、20年4月の税制改正で寄付額の最大9割の税軽減効果が得られることから、利用する企業は増加傾向にある。山陰にヒト・モノ・カネを呼び込むきっかけに同制度を活用している各金融機関の取り組みを取材した。


県外ネットワーク活用


山陰合同銀行は23年度から取引先に対する企業版「ふる納」の提案を本格化する。同制度を活用した地域課題解決プラットフォーム「river(リバー)」のサービスを、近畿・中四国エリアコーディネーターを担うエッグ(鳥取県)と協力して推進。自治体の地域再生計画の策定支援と企業側のニーズ喚起を両輪で回していく。


エッグなどと協力して自治体や企業向けに同制度の活用ポイントや事例を紹介する説明会をこれまで複数回開催。21年度下期~22年度上期に、山陰両県の自治体との関係強化を図り、計18自治体と同サービスの活用で契約した。22年度下期からは各自治体と企業のマッチングを開始し、これまでに15件の寄付受け付けを支援した。


ある自治体では、地域の教育施設が統廃合で減少。子供たちの通学手段の確保が課題だった。同行は、液化プロパンガス(LPG)を燃料にするスクールバスの導入を提案。LPGガススタンドを地域の防災拠点とする計画をサポートしている。


各自治体のニーズをもとに、今後は県外店を中心に企業側へのアプローチを強化する。同時に行内で成功事例の共有も進める。地域振興部は「寄付を一過性にせず、関係人口の増加や産業の発展につながるような取り組みにしていきたい」と展望する。


両手型マッチング注力


鳥取銀行は企業・自治体双方のニーズを銀行単独で聞き取る〝両手型〟企業版「ふる納」マッチング支援に注力している。中心になるのは、頭取直轄の地方創生プロジェクトチーム(PT)。同行は全支店長を地方創生サポーターに任命し、自治体や取引先の企業版「ふる納」に関するニーズが、地方創生PTに直ちに報告される仕組みを構築した。現場から上がってきた案件は、同PT内にストックしている情報と組み合わせて計画を策定。オーダーメイドで計画実現まで伴走する。


1号案件では岡山市の和菓子メーカー源吉兆庵ホールディングス(HD)と米子市をマッチング。米子市皆生温泉の「皆生みらいの灯り推進事業」への3000万円の寄付を実現した。同HDは米子市内に工場を進出しており、「地域に恩返しがしたい」(岡田憲明代表取締役)ことをキャッチした同行岡山支店長が寄付を提案。地方創生PTが米子市の事業を紹介した。



鳥取銀が支援した大山西児童クラブの開所式に出席する関係者(22年9月30日、提供)
鳥取銀が支援した大山西児童クラブの開所式に出席する関係者(22年9月30日、提供)

大山町のケースでは、婦人ニットシャツ製造などのトリーカ(大阪府)の寄付を支援。同社は鳥取県の工場誘致企業第1号で、創業60周年記念事業に地域貢献事業を検討していた。こうしたニーズを把握していた同行は、大山町の子育て支援事業を同社に紹介。同行も旧大山支店の建物を町に譲渡する計画があったことから、旧店舗をリニューアルした「大山西児童クラブ」を22年9月30日に開所。トリーカが同クラブの教材やおもちゃを贈呈した。


同行は地方創生PTが発足した21年度以降に5件支援。進行中の案件も複数件抱える。1件ごとの金額が多いのも特徴で、地方創生PTは「オーダーメイドで一つひとつの企業に寄り添って地域貢献のニーズを喚起し、制度を使いこなしていきたい」としている。


地元事業者の販路拡大


島根銀行は地元企業の販路拡大に同制度を活用しようとしている。企業の販路開拓支援などを手がけるRCG(東京都)が企画する、全国の逸品を取り扱うサービス「BANKER's Choice福利厚生版」に着目。浜田市など山陰両県の7自治体と事業に参加している。


同サービスは、納税企業の従業員が全国の金融機関の紹介する各地の特産品を特別価格で購入できる特典がつく。同行は地元企業14社の出品を後押しした。浜田市のケースでは同行浜田支店が中心となり市内の事業者の食品などを同サービス特設ページに掲載。出品事業者向けの説明会を開くなど販路拡大をバックアップした。



浜田市に寄付したオンライントラベルの島田代表取締役(右端)に特産品を案内する市職員と竹野下聡・島根銀浜田支店長(左端、4月21日、はまだお魚市場)
浜田市に寄付したオンライントラベルの島田社長(右端)に特産品を案内する市職員と竹野下聡・島根銀浜田支店長(左端、4月21日、はまだお魚市場)

企業版「ふる納」のマッチング支援事業を通じて自治体の地方再生計画にも密着する。直近で支援中なのが浜田市の観光・交流の推進事業。オプショナルツアーに強みを持つオンライントラベル(大阪府)と同市を仲介し、3月に200万円の寄付を実現。4月21日に同市で贈呈式を開いた。


浜田市は、島根県西部などで盛んな伝統芸能「石見神楽」を25年の大阪万博でアピールして観光誘客の起爆剤にしたい考えで、同社と意見交換した。式後には、同社の島田篤社長が市内観光施設を視察。島根銀行員も同行し地域の魅力を紹介した。


営業エリアに自ら納税


一方で、自ら寄付企業になる金融機関もある。出雲市に本店を構える島根中央信用金庫は、23年3月に営業店のある松江市や大田市など5市町に総額600万円を寄付。子育てや教育環境の充実事業などに活用される。企業版「ふる納」の制度上、本店所在地には寄付できないため、出雲市と対象事業のなかった川本町を除く、全店所在地の自治体へ実施した。


福間均理事長は「対象事業は地方創生の目的が明確なため安心して寄付できる。地域発展に役立ててほしい。各自治体と目指す方向は同じだと確認し合う機会にもなった」と意義を語る。今後も寄付を継続する方針だ。


現状、企業版「ふる納」の税額控除の特別措置は24年度まで。山陰地区の各金融機関は、同制度の寄付を活用した地域振興を一過性のものとせず持続可能なものにするため知恵を絞っていく。

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