【金融庁幹部人事】新任局長3人の〝横顔〟

2022.06.18 04:22
金融庁 役員人事
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【1人目】総合政策局長に就く栗田氏 コロナ対策で手腕発揮栗田氏


歴代金融庁長官の在任期間は1~3年。3年務めた大物は、五味廣文、畑中龍太郎、森信親の3氏のみだ。現長官の中島淳一氏は2年目に入るが、今秋に60歳を迎えるため来年は退任が確実だ。今回の人事で、次期長官候補は事実上2人に絞られた。


一人は、1987年大蔵省(現財務省)入省組の栗田氏。もう一人は、栗田氏の後任として監督局長に昇格した伊藤豊氏(89年入省組)。入省年次は伊藤氏が2年後輩だが、年齢は同い年。2人とも60歳定年が迫っていることを考えると、栗田氏が1年務めて伊藤氏に引き継ぐというシナリオはなさそうだ。


栗田氏のキャリアの転機は、企業開示課長時代だろう。当時、国際会計基準(IFRS)を国内企業に適用すべきか、激しい議論が交わされていた。その方向性を決める役割を担う有識者会議である企業会計審議会で、司会進行・テーマ設定・報告書作成などの取りまとめ役を担った。


金融庁は多数の有識者会議を設けており、利害の異なる業界同士、金融機関と消費者団体などの間で、意見が食い違うことは珍しくない。だが、栗田氏が事務局を務めた時期の企業会計審議会はIFRS推進派と反対派の意見が最後までかみ合わず、同庁の歴史で最も意見調整が難しいテーマの一つだった。最終的に、IFRS賛成派の意をくんでIFRSを導入できる国内企業を広げる一方、反対派に対しては「日本が理想とするIFRS」をつくって国際標準化を目指す構想をぶち上げるという〝ウルトラC〟を繰り出して溜飲を下げた。


その翌年、花形ポストの銀行一課長に抜擢されると、今度はみずほ銀行の〝反社取引問題〟に対処。同行への行政処分や再発防止策の策定を進め、のちに警察庁が保有する反社情報を金融機関が照会できるシステムの構築につながった。


監督局長としては歴代最長の4年を務めた。後半の2年間はコロナ禍が直撃。金融機関に事業者支援を徹底させ、過去のような貸し渋り、貸しはがしの発生を防いだ。一方、全国銀行協会とすり合わせた中小企業向け事業再生指針の策定では金融機関側の主張にも配慮するなど、バランスの取れた手腕を発揮した。


【略歴】栗田 輝久(くりた・てるひさ) 京都府出身、58歳


1986年10月 国家公務員Ⅰ種試験(法律)合格


1987年3月 京都大学(法)卒


    4月 大蔵省(現財務省) 理財局 国債課


1989年4月 大蔵省 大臣官房 調査企画課 兼 財政金融研究所研究部


    7月 兼 国税庁 大阪国税局 調査部(~1990年1月)


1990年7月 大蔵省 銀行局 調査課


1992年7月 国税庁 仙台国税局 白河税務署長


1993年7月 経済企画庁 調査局 内国調査第一課


1995年7月 大蔵省 関税局 調査保税課 課長補佐


1996年7月 大蔵省 関税局 総務課 課長補佐


1997年7月 大蔵省 大臣官房 調査企画課 課長補佐


1999年7月 金融監督庁(現金融庁) 長官官房 総務課 課長補佐


2000年7月 金融庁 総務企画部 企画課 課長補佐


2001年1月 金融庁 総務企画局 企画課 課長補佐


    7月 金融庁 総務企画局 信用課 課長補佐


2002年7月 金融庁 総務企画局 企画課 課長補佐


2003年6月 財務省 大臣官房付(米国・スタンフォード大学客員研究員)


2005年7月 国税庁 大阪国税局 課税第一部長


2006年7月 金融庁 監督局 総務課 監督調査室長


2007年8月 金融庁 総務企画局 総務課 企画官(金融担当大臣秘書官事務取扱)


2008年8月 金融庁 監督局 総務課 コングロマリット室長


      兼 監督局 総務課 監督企画室長


2009年7月 金融庁 監督局 証券課長


       兼 監督局 証券課 市場機能支援室長(~2010年7月)


2011年8月 金融庁 総務企画局 企業開示課長


2013年6月 金融庁 監督局 銀行第一課長


2014年7月 金融庁 総務企画局 総務課長


2016年6月 金融庁 総務企画局 参事官(監督局担当)


2018年7月 金融庁 監督局長


2022年6月 金融庁 総合政策局長


 


【2人目】監督局長に就く伊藤氏 人材マッチングに情熱伊藤氏


2021年7月の異動で審議官から監督局長に昇格するとの観測も流れた伊藤豊氏(58)。総括審議官を挟む形になったものの、1年遅れで実際に就任することが決まった。


霞が関界隈では、15年7月から4年間務めた財務省秘書課長の印象が強い。森友学園への国有地売却をめぐる公文書改ざん問題などで同省が揺れるなか、組織風土改革に向けた再生プロジェクトを指揮した。


ただ、キャリアのなかでは銀行監督の経験も豊富だ。96年から2年間、旧大蔵省銀行課で課長補佐を務め、旧日本債券信用銀行の「奉加帳増資」による救済などに携わった。19年7月から2年間は監督局の審議官として、大手行グループと保険業界を担当した。


大企業で働く管理職や専門職を、地域金融機関の力により地方の中小企業へ橋渡しする――。ここ数年、情熱を注ぐのは地域経済活性化支援機構が運営管理する人材マッチング事業だ。20年の事業開始以降、自ら大企業に協力を呼び掛けてまわる。21年7月に総括審議官に就任した際も、志願して担当を継続した。


金融庁内ではゴルフが上手いことで知られる。東大時代は野球部に所属したスポーツマンだ。


【略歴】伊藤 豊(いとう・ゆたか) 千葉県出身、58歳


1988年9月 国家公務員Ⅰ種試験(法律)合格


1989年3月 東京大学(法)卒


1988年4月 大蔵省(現財務省  大臣官房 文書課


1991年6月 大蔵省 大臣官房付(留学)


1993年7月 大蔵省 証券局 証券市場課


1995年7月 国税庁 東京国税局 雪谷税務署長


1996年7月 大蔵省 銀行局 銀行課 課長補佐


1998年7月 大蔵省 主税局 総務課 課長補佐


1998年8月 金融監督庁(現金融庁) 監督部 監督総括課 課長補佐


1999年7月 金融監督庁 検査部 検査総括課 金融証券検査官


       兼 監督部 銀行監督第一課 課長補佐


       兼 監督部 銀行監督第二課 課長補佐


2000年1月 金融監督庁 監督部 銀行監督第一課 課長補佐


       兼 監督部 銀行監督第二課 課長補佐(2000年6月)


2000年7月 金融庁 監督部 銀行第一課 課長補佐


2000年7月 大蔵省 主計局 調査課 課長補佐


2001年1月 財務省 主計局 調査課 課長補佐


2002年7月 財務省 主計局 主計官補佐(経済産業第一係、二係主査)


2003年1月 兼 内閣府本府 産業再生機構(仮称)設立準備室 参事官補佐(~2003年4月)


2003年5月 株式会社産業再生機構 企画調整室 上席審議役


2005年7月 財務省 大臣官房 総合政策課 課長補佐


2005年8月 兼 財務総合政策研究所 研究部 国際交流室 国際交流官


2006年7月 財務省 大臣官房 企画官


2007年8月 交流派遣(株式会社東京証券取引所)


2011年7月 財務省 主税局 税制第三課長


2012年7月 財務省 主税局 調査課長


2012年12月 財務省 主税局 税制第三課長


2013年6月 財務省 主税局 税制第二課長


2015年7月 財務省 大臣官房 秘書課長


2019年7月 金融庁 総合政策局 審議官(監督局担当)


2021年7月 金融庁 総合政策局 総括審議官 兼 総合政策局 公文書監理官


2022年6月 金融庁 監督局長


 


【3人目】企画市場局長に就く井藤氏 社会の変化踏まえ制度立案


井藤氏


サステナブルファイナンスや金融イノベーション、国際金融センター、NISA(少額投資非課税制度)など税制――。「金融庁の司令塔」とされる政策立案総括審議官として、幅広い分野の政策に携わってきた。社会や経済の急速な変化を同庁で最も感じ取れる役職での経験を生かし、7月からは今後の金融があるべき姿に向けた法制度の企画立案を担う。


2009年に亀井静香金融担当大臣の秘書官に任命されるなど、早くからエース級の人材と目されてきた。金融庁幹部では珍しく、13年から1年間、財務省の花形である主計官(文部科学係担当)を務めた経験もある。一方で、銀行第二課長を経験し、地域経済活性化支援機構(REVIC)を設立するための法整備も担うなど、地域金融にも明るい。


大蔵省(現財務省)入省は88年。年次が一つ下の伊藤豊総括審議官と同音の「イトウ」姓であるため、ゴルフ上手と間違われることがあり困る(伊藤氏はゴルフ上手で有名)というエピソードを持つ。マスコミ対応を苦手とする幹部もいるが、財務省で広報室長を経験したため慣れている。


【略歴】井藤 英樹氏(いとう・ひでき) 岡山県出身、57歳


1987年9月 国家公務員Ⅰ種試験(法律)合格


1988年3月 東京大学(法)卒


    4月 大蔵省(現財務省) 証券局 総務課


1989年5月 大蔵省 証券局 流通市場課


1990年6月 大蔵省 証券局 局付(留学)


1992年7月 郵政省 通信政策局 政策課


1994年7月 国税庁 札幌国税局 旭川東税務署長


1995年7月 国税庁 課税部 酒税課 課長補佐


1997年7月 大蔵省 証券局 証券業務課 課長補佐


1998年6月 大蔵省 金融企画局 市場課 課長補佐


1999年7月 大蔵省 主計局 主計官補佐(科学技術第一係主査)


2000年7月 大蔵省 主計局 主計官補佐(内閣第一係主査)


2001年1月 財務省 主計局 主計官補佐(内閣第一係主査)


2001年7月 財務省 主計局 主計官補佐(文部科学第一、二係主査)


2003年6月 外務省 経済協力開発機構 日本政府代表部 一等書記官


2005年7月 外務省 経済協力開発機構 日本政府代表部 参事官


2006年7月 財務省 大臣官房 文書課 広報室長


2007年7月 金融庁 総務企画局 企業開示課 企画官


       兼 総務企画局 市場課 市場業務管理官


2009年7月 金融庁 総務企画局 企画課 保険企画室長


2009年9月 金融庁 総務企画局 総務課 企画官(金融担当大臣秘書官事務取扱)


2012年6月 金融庁 証券取引等監視委員会事務局 開示検査課長


2012年7月 金融庁 監督局 銀行第二課長


2013年1月 兼 内閣府 政策統括官(経済財政運営担当)付参事官(地域・企業担当)(~2013年5月)


       兼 内閣府本府 地域経済活性化支援機構法(仮称)準備室 参事官(~2013年2月)


2013年2月 兼 内閣府本府 地域経済活性化支援機構法準備室 参事官(~2013年3月)


2013年5月 兼 内閣府 政策統括官(経済財政運営担当)付参事官(予算編成基本方針担当)


2013年6月 財務省 主計局 主計官(文部科学係担当)


2015年7月 金融庁 総務企画局 政策課長


       兼 内閣府 政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(金融担当)


2017年7月 金融庁 総務企画局 参事官(検査局・官房・地域金融生産性向上支援担当)


2018年7月 金融庁 総合政策局 審議官(監督局担当)


2019年7月 金融庁 総合政策局 審議官(市場担当)


       兼 公認会計士・監査審査会 事務局長


2020年7月 金融庁 総合政策局 政策立案総括審議官


2022年6月 金融庁 企画市場局長

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