【実像】スタートアップ支援の現状(上)

2022.05.19 04:45
起業・創業支援
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「戦後に次ぐ第2創業期を実現するため、2022年を『スタートアップ創出元年』とする」。岸田文雄首相が1月の年頭記者会見で発した言葉に、スタートアップ(SU)業界が色めき立った。政府は6月までに「スタートアップ5カ年計画」を策定する予定だ。近年は金融界でもベンチャーキャピタル(VC)投資やオープンイノベーション促進などの動きが広がっており、政府による支援強化に伴ってさらなる加速が予想される。2回シリーズの初回は地域銀行の取り組みにスポットを当てる。


市場、10年で10倍


国内SUの資金調達は好調に推移している。ユーザベース(東京都)が運営するSU情報プラットフォーム「INITIAL(イニシャル)」の調査(図表1)によると、21年度の資金調達額は7801億円(22年1月25日時点)。集計開始後10年で10倍超に拡大した。特に、21年はその前年実績(5334億円)よりも2千億円以上増えた。国内の株価高騰を受け、海外の機関投資家が国内SUへの関心を高めたのが主因だという。


日本ベンチャーキャピタル協会の渡辺洋行常務(B Dash Ventures社長)は、「IPO(新規株式公開)直前のレーター期のSUに対し、数十億円から100億円程度を投入する動きが目立った」と話す。


1社あたりの平均調達額(図表2)は、10年前の6倍の4億7千万円(22年1月25日時点)に伸長。「1社あたりの調達額を上げていかないと、勝てない状況になっている」(渡辺氏)という。


地銀がリスク資金


こうしたなか、地域金融機関もリスクマネーの供給に動き始めた。西日本シティ銀行は、100%子会社のNCBベンチャーキャピタルを通じて創業支援を本格化。20年9月に「NCBベンチャーファンド」(総額20億円)を組成し、これまでに10先への投資を実施した。22年5月には、クラウド型採用支援システム「採用係長」を運営するネットオン(大阪市)へ出資。同社に対しては、「人材採用面で取引先の課題解決につながる」として、マッチングなどに取り組む。


コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)ファンドを設立して、投資先との協業を図る動きもある。横浜銀行は21年2月、デジタルガレージ(DG)グループとCVCファンドを共同で設立。デジタルトランスフォーメーション(DX)に優れたSUを発掘し、4年間で約15社に出資する予定。自行のDX促進に加え、投資先との協業を通じて地元中小企業の生産性や効率性を向上させるサービスやソリューションの提供を目指す。第1号の投資案件となったWealthPark(ウェルスパーク、東京都)は不動産管理業のDXを手掛ける。同行は紙に依存する不動産管理会社の業務効率化で協業。同社と情報連携することで不動産オーナーのニーズを把握し、不動産用ローンや相続関連の取引につなげたい考え。


地元企業とつなぐ


オープンイノベーション促進の取り組みも広がりつつある。広島銀行は、19年度から広島県などと「広島オープンアクセラレーター」プログラムを展開。全国約6千社のSUが登録する情報プラットフォームを活用し、県内の中核企業とのマッチングを通じて新規事業の創出を目指す。これまでの事業化検討案は累計32件。同行取引先のダイクレ(広島県)の事例では、SUのカンバイ(東京都)による提案事業の採択を契機に、浸水防止シート付きデジタルサイネージの事業化に成功した。足元でも、5~6社の案件が進行中だ。


中部エリアの地域銀行や銀行系VCなど13社は、4月からユニコーン企業の創出を目指す「中部STARTUP RUNWAY」を開始した。起業家やSUの成長に不可欠な支援を提供するプラットフォームとして、事業のブラッシュアップや資金調達などの相談に積極的に対応する。支援を受けるSUは、参画企業に対して一括での相談依頼が可能。地域銀が参画しているため、出資だけでなく融資も組み合わせて支援できるのが特徴だ。



「中部STARTUP RUNWAY」のピッチコンテストで、各賞が記されたパネルを掲げる起業家たち(5月12日、アゴラ静岡会議室)
「中部STARTUP RUNWAY」のピッチコンテストで、各賞が記されたパネルを掲げる起業家たち(5月12日、アゴラ静岡会議室)

5月12日には、静岡銀行が中心となって本格的な活動の第一弾として静岡市内でピッチコンテストを開催。SU10社が自社サービスのプレゼンを行った。


情報・交流拠点も


世界最先端の情報や起業家同士の交流拠点を提供する動きも出てきた。静岡銀行は、21年6月にSUの支援・発掘を担うプロジェクトチームを設置し、首都圏などで活動を展開している。同年11月には、米国ロサンゼルス支店をシリコンバレー地区に移転し、先端技術やベンチャービジネスの情報収集拠点として「シリコンバレー駐在員事務所」を開設。現地の情報を静岡県内の企業に紹介する取り組みを始めている。


中国銀行は、22年5月に「ちゅうぎんスタートアップコミュニティ」を設立した。起業家同士や地域の有力企業を引き合わせ、ビジネスアイデアの具現化を後押しする。同コミュニティには、同行とつながりのある約400人の起業家を招待しており、5月25日には交流会を開催する予定。同行の投資専門子会社や地域商社の社員も参加し、起業家との人脈構築を図る。


九州地区では、地方銀行によるコワーキング施設の開業が相次ぐ。専門スタッフを常駐させて、起業家の資金調達から事業計画の策定、ビジネスパートナーの紹介など、ワンストップで支援できるのが強みだ。十八親和銀行は22年1月、長崎市内の旧思案橋支店ビルに「DIAGONAL RUN NAGASAKI」を開業した。肥後銀行は4月、熊本市内の旧銀座通支店を改装し、創業支援プラットフォーム「スタートアップ ハブ くまもと」を開設した。笠原慶久頭取は「創業支援件数は、5年間で700先を目指す」と意気込む。


鹿児島銀行も4月、地元最大の繁華街・天文館エリアに「HITTOBE powered by The Company」を開業。松山澄寛頭取は「ここからGAFA、ユニコーン企業みたいな企業が出てくるのが私の夢」と期待を述べた。

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